旬彩もろきち

料理研究家や料理人、料理を愛する人のために、食の魅力や食文化の知識を発信します。また、飲食店経営のための経営学的知識や、ワンランク上の料理をするための科学的知識もあわせて紹介します。

オンラインでビール醸造所見学:YYGのビールたちと共に

こんにちは、Kindle執筆中のmorokitchです。とうとう社会人になったものの、リモートワークの日々でなかなか実感のわかない日々を過ごしておりますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?

さて、コロナになってから外出機会が減って、飲食小売業界が青息吐息なのはご存知のことでしょう。そんな中、東京に来てから知り合った七つの顔を持つ仲良し社長(情報量過多のため詳細割愛)からお誘いが。

「今度私の友達がHOPPIN’ GARAGEっていうクラフトビールのオンライン飲み会開催するんだけどmorokitch君も参加しない?」

 

自粛をものともしないイベントの底抜けな明るさが気になり、送っていただいたリンクを早速タップ。どれどれ内容は…?

  1. クラフトビール三種をご自宅にお届け!
  2. 醸造所のオンライン工場見学あり!
  3. ブルワーのインタビューあり!
  4. 全てこみこみで3,500円(今回は紹介クーポンで500円引き)!

ほん、ええやん。二つ返事で「参加します!」と応じて今日に至ります。

 

そして、一昨日届いたのがこちらです。

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正直なところ、お酒は日本酒派で、すぐにおなか一杯になっちゃうビールはそこまで…というタイプだったのですが、いざ届くとテンションが上がります。

そして、何より気になるのがこのイベントの形式。未だかつてこんなにオープンなzoom醸造所見学などあったでしょうか?今のご時世ならではの新形態。いわば、酒体験の最前線に来てしまったわけです。

 

三種のクラフトビール付きオンライン飲み会

買い出しと料理は結局間に合わず、開始1分前に滑り込みログイン。今日のスケジュールが表示されていました。

 

15:50~入室可能
16:00~乾杯・挨拶
16:10~醸造所見学
16:30~ブルワー様インタビュー
16:50~質問コーナー

 

まもなく、主催者のオハさんから

「ではでは皆さま喉が渇いた頃だと思いますので、そろそろ始めてまいりたいと思います!」

と元気のよい挨拶が。ビデオオンで参加している方の笑顔や笑い声が聞こえ、チャット画面には「待ってました!」と書き込みがされたり。参加者は30名。男女半々くらいで既におつまみを摘まんでいる人も。同時に送られてきたビールを開栓して画面に向かって乾杯🍺この雰囲気も面白い…!

 

まずは主催のオハさんからご挨拶が。彼は株式会社Kitch Hikeのアンバサダーで、クラフトビールの良さを広めていきたいという思いで頑張っているそう。

Kitch Hikeは2013年創業の会社で、美味しさを「美味しいものを食べる」と「美味しく食べる」の二つに分類し、後者の方法を多くの人に知ってもらおうというビジョンがあるみたい。今回のコロナ騒動に際して#勝手に応援プロジェクトと称し、飲食店向け前売り券の販売やこういったオンラインイベントを開催しているようです。

詳細はこちらで↓

kitchhike.jp

 

サクッと挨拶を終えて、今回の主役たる遠藤さんにバトンタッチ。

ビールの原料である「水・ホップ・麦芽酵母」の説明を簡単にしたのちに遠藤さんはおもむろに席を立ちます。

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キリンHPよりホップの写真。見たことない人多いよね

 雑談:ホップの新芽は松茸に勝るほどの高級野菜らしいです。自分でホップ育てちゃった人の面白いブログ見つけたので共有しておきます→https://otokonakamura.com/hopshoot/

 

YYGの醸造所見学

「あ、室内なんだ」

思わずひとりごと。ちゃんとミュートかけていて良かった(笑)

それもそのはず今回見学させていただくYYGさんは、新宿駅から徒歩圏内に醸造所(1F)とビアキッチン(7F)を構えるいわば都会のブルワリー。日々のビアキッチンでのサービスに加え、新しいビールの開発にも余念がないワクワクの詰まったお店です↓

www.yygbrewery.com

 

さっきまで配信していたテーブルからほんの20歩歩いたところに醸造マシーンが並んでいました。清潔な室内にピカピカな機材…。

クラフトビール醸造所と言えば去年、京都の平和酒造さんにお邪魔したことがあるのですが、そこでは昔ながらの大きな蔵で作っていました(元は酒蔵ですからね)。広さといいモダニティといい、知っていた醸造所のイメージと正反対だったので驚きました。

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ちょっとzoomの画質が荒いのはお許しください。製造工程はざっくり下記のような感じです。 

  1. 粉砕抽出:麦芽を粉砕して粉にしてお湯に溶けやすくする(ここの規模の機械だと一回当たり80キロの麦芽を投入するんだそう)。★写真左上の樽型コンテナ参照。
  2. 麦汁吸出し:この機械の中は二層構造になるらしく、麦芽を境に上下二つの層を作るんだとか。下層からビール成分をたっぷり含んだ麦汁を吸い出します
  3. 煮沸消毒:吸い出された麦汁は煮沸タンクに移されます。加熱することで消毒・殺菌を行います。また、麦芽のタンパク質を凝固沈殿除去して上澄み液をクリアにする効果もあります。★写真上中央参照。
  4. 香り・苦味付け:この段階でホップを少量加えることで香りや苦味が麦汁につきます(こんな機材のない大昔は除菌効果のあるホップが必須素材だったそうな)。
  5. 定温発酵:じつはこの段階では糖分が入っているので甘~い状態。これを発酵タンクに入れて20度前後にしながら4,5週間発酵させる。★写真上右参照。


「発酵はこれで5日目くらい。そろそろいい感じなので出してみましょうか」
手元のスプレーでアルコール消毒して、丁寧な所作でグラスにビールを注ぎます。★写真左下参照。

ビールは菌の影響が出やすい繊細な飲料。あらゆる場面で、必ず消毒してから機材に触っているそう。もし、雑菌が入ってしまうと酸っぱくなったり臭くなったりしてしまうらしいです。あいにく画質の関係で液の状態は見えませんが、5日目だと酵母が液体内をふわふわ浮いている状態だそう。
「糖分の量を量ってみましょうか」
遠藤さんはメスシリンダーにビールを移し替えて(たぶん)バネはかりを浸して比重の測定を実演してくれました★写真下中央参照。
結果は、1.050(g/mL)→1.010(g/mL)

(遠藤さんは「50から10くらいになっていますね」と言っていたので、この業界では水の比重との差し引きmg/mL単位で糖分量を量るんでしょう)

簡単に言うと、50あった糖質の内40が酵母に分解されてアルコールになりましたよというニュアンスです。(・_・D フムフム

この段階ではほぼ発酵は終わっているらしく、あと2,3日寝かせることでずっと味が落ち着くそうです。一週間でそれらしくなっちゃうんですね。
出来上がったビールはケグというタンクに移して、飲食店に出荷されます。最後に、うちだとこんな感じで飲めますよ~と、壁に刺さったサーバーを見せてくれました。★写真右下参照

これは醸造所の特権!「壁サーバーうちにほしいです!」との声もありました(笑)

 

おもしろQ&Aタイム

席に戻ってお待ちかねのQ&Aタイム。

オハさんの用意した質問とフリー質問に対して遠藤さんが答えてくれます。

 

ビールの美味しい飲み方は?

遠藤さん「グラスで飲むのがいいね。種類は何でもいいよ。使い分けるならこの二つかな」と、画面越しに二つのグラスを見せてくれました。

  • タンブラーのグラス:のど越し・シャープさが際立つ
  • チューリップ型のワイングラス:香りが際立つ

遠藤さん「バランスのいいペールエールはどっちのグラスでもいいよ。あとは、ビールの個性に応じてグラスを使い分けてみてください。これもまたビールの面白いところの一つだね」

 

ビールとおつまみのペアリングは?

オハさん「先ほど皆さんにzoomアンケートをとったりしましたが、どれが一番あうんですか?スパイシーチキンナゲットなんていう声もありますけど」

遠藤さん「スパイシーチキンナゲットとかは面白いね。肉汁の旨味と麦芽の旨味の相性がすごくいいんです。軽めで白ワイン似のペールエールやどっしり濃いめのアンバーエールと合わせたりね。」

オハさん「へぇ、なるほど!」

遠藤さん「肉の種類に応じてビールを変えるのもまた面白いですよ」

遠藤さん曰く、スパイスに苦いビールを合わせると、苦味がブーストされるので、辛い料理には刺激の弱いビールをあわせるのがベターだそう。また、辛味がないのであれば、料理とビールの系統をそろえるもの常套手段らしい。例えば、寿司やサラダは軽めのビール。しっかり火の通った豚にはペールエール。レアに火入れした赤い肉や、とんかつはアンバー(今回紹介した中で一番濃いめ)を生かすといいとのこと。

 

遠藤さんの思う美味しいビールは?

遠藤さん「え、これは他社さんの出しちゃっていいんですか?」

冗談交じりに笑いながらもう既に席を立ち始めています(笑)オハさんが場をつないでいると嬉しそうに缶を握って戻ってきました。

遠藤さん「事務所のOKが出たので紹介しますね」

オハさん「あれ、確認の様子は見えなかったですけど(笑)」

紹介されたのは、アメリカの東海岸のバーリーオーク社が作るJREAM(ジェリーム)。美味しいサワーを作ることで有名な会社で、もちろんJREAMはサワーエール。酸っぱくて炭酸が心地よく、バニラやナツメグの香りがする。プエルトリコでクリスマスに飲まれるというラム酒を使ったカクテル「コキート」にインスパイアされた銘柄だそう。

オハさん「YYGさんのビールの中だとどれが推しですか?」

遠藤さん「3本の中ではIPAが好きかな。バランス型ならペールエールだね。ブラッシュアップで失敗することもあるんだけど、今回はすごくうまくできた自信作」

 

クラフトビールと大手との違いは?

オハさん「いわゆるその、A社さんとかK社さんとかS社さんみたいな大手のビール会社と、YYGさんみたいなクラフトビールの違いって何なんでしょうか?」

遠藤さん「資本力ですね(即答)」
(zoon参加者爆笑)

オハさん「(大きく笑ながら)まぁ、それは確かにそうなんでしょうけど、斜め上からの答えですね」

遠藤さん「まぁそうだね(笑)、ビールの歴史の話になっちゃうんだけど、始めのビールはエールだったんです。1600年代とか交易するようになってから知られるようになりましたね。ところが、ある日を境にラガーに代わる。たくさん作って皆に飲んでもらおうという思いでそれはたくさんのビールが醸造されました。設備に投資すればするほど安く作れます。例えば、色んな研究をしているA社さんなんかは美味しいものを作れますよね。美味しいものをしかも同じ均一性で届けられる。その一方で、僕らに何ができるかというと、この小さい醸造所で作れるビールの多様性をできる限りに伝えることかな。お客さんに『こんなビールがあるんだ』みたいな新しい発見を伝えたいですね。」

冗談からのこの切り替わりの速さに、遠藤さんのプロ意識を垣間見たというか、すっかり感心してしまいました。いいお話が聞けた。オハさんナイス質問です!
オハさん「多様性といえば、来週から販売用のビールが4種類になるらしいですね。それに、今はもう飲めないけど杏仁豆腐のビールをやってたりとか」

遠藤さん「ほかにも苺とか柚子を大量に使ったビール、植物的な香りを目いっぱい生かしたボタニカルなビールなんかもやりましたね」
オハさん「いや、YYGは色んな特色があって面白いです」
遠藤さん「発見が売りだからね。ビールの美味しい美味しくないには個人差があるから、ここにきて自分に合うビールを見つけてみてください」

 

そしてここからは参加者からの質問タイム。マイクを解除して質問される方、チャットに質問を書き込む方、そのなかから4件ほど質問が取り上げられました。

 

結構度数の高いビールってありますよね?

遠藤さん「9%はよくありますね。インペリアルIPAやダブルIPAは9~10%あたりがそのくらいですね。インペリアルと名前の付くものは総じて度数が高いですよ。他にも13%なんてのもあるけど、それ以上になると競い合いの世界になりますね。なんなら53%のビールもあったりしますよ」

オハさん「そんなに度数の高いビールがあるんですね。度数を上げるには麦芽を増やせばいいんですか?」
遠藤さん「そう。あとはアルコールをたくさん作れる酵母を使うとかね。でも、それにも限界があるから他の方法をとらなくちゃいけない。伝統スタイルでいうと、ドイツのアイスボックでは、ビールの水分だけを凍らせてアルコール成分だけ取り出すといった方法でアルコール度数の高いビールを作っていますよ」

 

美味しいビールを作るには?

遠藤さん「うーん、こころ、パッションだね(笑)」

オハさん「精神論ですね(笑)やっぱり気持ちを込めて造るのが大事ですか?」

遠藤さん「ビール造りって、仕込むタイミングは1日で終わっちゃうんですよ。
そこから1週間元気に発酵した後、続く2,3週間ゆっくり発酵するんです。その間にブルワーの僕らにできることって、雑菌が入ったりしないように綺麗に掃除をしたりとか、毎日温度計を見ながらこまめに世話をしてやったりなんですよ。丁寧な世話を継続するためのモチベーションがおいしいビールを造ってやるぞっていうパッションかな」
オハさん「すごくこまやかだし、遠藤さん恋愛上手そうですね」
遠藤さん「はい、恋愛うまいですよ(笑)まぁ深堀りはしないでおきましょう(笑)」」

 

自宅でビールを造ってみたいんですが

オハさん「野心的でいいですね(笑)遠藤さんいかがでしょうか?」

遠藤さん「質問者さんが仰っていた通り、日本国内では度数1%の物を作ると捕まっちゃいますから、大前提として、1%未満の物としてお話しますね(笑)ビールっていうのは2000年以上前から作られてきたお酒だから、今の僕らにが作れないわけがないんですよ。言ってしまうと、麦芽を買って、つぶしてお湯に入れて放っておけばできちゃいます。でもそれより美味しく作ろうと思うと本やネット調べ物をして、アサヒさん、あ、A社さん(笑)がやっているような工夫をする必要がありますね」

オハさん「名前言っちゃいましたね(笑)その辺の技術は気になるところです」
遠藤さん「詳しいところだと『自分でビールを造る本』っていう本がありますね。ビール造りが自由にできる国で書かれたものです。日本でも"勉学のために"なるはずだということで翻訳されました。この本に書かれたことをもとに1%未満を作りましょうという前提でいくと、鍋と耐圧のペットボトルがあればできちゃいます。まぁ、なかなか1%未満にコントロールするのは難しいんですけどね(笑)」

オハさん「僕の知る限り初心者に1%未満は作れないって聞いたこともあるんですが、その時はどうすればいいんでしょうか?
遠藤さん「水で薄めてください(笑)」

↓ビール造りを「勉強」したい方はこちらから(笑)

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ドイツ人は常温でビールを飲むことがあるそうな。どう飲むのが美味しいですか?

遠藤さん「常温で飲むようなビールというと、アルトかな?さっき歴史の話でエールとラガーではエールの方が古いってお話をしましたね。ドイツのアルトは英語で言うold(オールド)のことで、ゆっくりちびちび飲むことが多いですね。一方で、新しいラガーは冷蔵庫ができたあたりに広まったものだから冷やして飲むのが美味しいね」
オハさん「常温のものって度数が高かったりするんですか?」

遠藤さん「いや、そうとも限らないですよ。これまた色んな種類があります」

 

リスペクトしている醸造所は?

遠藤さん「途中で紹介した僕の好きなJREAMを造るバーリーオークはもちろんですけど、ほかにはアメリカサンディエゴのセイントアーチャーかな。東京だとDD4Dさんが好きですね」

オハさん「良いですね。質問者さんはほかの銘柄探しの参考にされたいとのことでしたけど、遠藤さんに紹介いただいたのは、売っているところも限定されるので、値段は張りますよ。価格を見てびっくりすると思います(笑)」

おわりに一言

遠藤さん「皆さん今日はご参加いただきありがとうございました。ビール買っていただけて嬉しいです。人生を変えるなんてことまでは言えませんが、毎日をちょっとだけ幸せにできるようにしたいです。そのために人生を注いでビールを造るので美味しく飲んでください!」

 オハさん「ありがとうございます。YYGは新垣結衣さんの『獣になれない私たち』の撮影場所になっているそうですね。ガッキーと同じ気持ちになりたい方は是非(笑)」
遠藤さん「YYGは代々木にあるんですが、要はわいわいがやがやのYYGです(笑)今の時世とはまったく正反対なので火曜金曜に少しだけ開けてます。落ち着いてからでも来てみてください。」

(チャットで「落ち着いたら遊びに行きます!(^^)!」というメッセージが飛び交う)

オハさん「来週からチェリーのビールも出ますからね、オンライン販売も楽しみです。さて、次回は隅田にある江戸東京ビールさんとやる予定なのでご興味のある方はぜひ次回も参加してみてください。5/31 16:00~です」

 

まとめ

いやはや、興味本位で参加してみたもののすごく面白かったです。特に、フードペアリングなんかはとても勉強になりました(ホップの種類についても詳しく話していただいたのですが冗長になるかなということで割愛🙇‍♂️)。

さて、インタビュー形式の投稿は初めての試みだったのですが、お楽しみいただけたでしょうか?ビールを飲みつつ、最近仕事で任されている議事録作成の練習をしてみました。オンライン飲み会が終わってからはビールのふわふわ感と完走感とで寝落ちてしまいました(笑)

記事書いている身としては良い気分転換でした。引き続きKindleの準備も頑張ってまいります。最後まで読んでいただきありがとうございました!