旬彩もろきち

料理研究家や料理人、料理を愛する人のために、食の魅力や食文化の知識を発信します。また、飲食店経営のための経営学的知識や、ワンランク上の料理をするための科学的知識もあわせて紹介します。

フライドポテト王者決定戦:一番旨い揚げ芋はどいつだ?タピオカの原料キャッサバ芋も参戦!

こんばんはmorokitchです。

今日のテーマはフライドポテトです🥔🥔🥔

フランスを発祥として世界各地に広がったフライドポテトは、ファーストフード業界で最も名を馳せた料理と言っても過言ではありません。一般的には『ジャガイモ』が用いられ、フランス人によるとベルギー産ジャガイモを使ったフライドポテトが最も美味しいんだとか。数ある揚げ料理の中では特に珍しく『素揚げ』するだけで作れてしまうというラクチンさが特徴でしょう。

さて、このフライドポテトですが、当然ほかの芋類でも作ることができます。

今回は

  • アンデス山脈代表:ジャガイモ
  • 東南アジア代表:里芋
  • 日本(中国説もある)代表:長芋
  • アマゾン代表:キャッサバ芋(タピオカの原料)

の4種を用意しました!

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ちなみに、キャッサバ芋はタピオカの原料で、わざわざ五反田から購入してきたレア物。このフライドポテトは、ペルーでは「ユカフリータス」という固有名まで与えられているいわば異国の手練れ。果たして労力に見合った結果を出してくれるのか?大きな期待がかかります。

では、この中から一番おいしいフライドポテトの王者を決定します!

 

 

ルール説明

まずはルール説明。フレンチの魂に則って、最も美味しくなると思われる方法でそれぞれの芋をフライドポテトにします。すなわち、二度揚げを行います。

大きめに切った芋を高温の油に放り込み、表面が色づく程度火を通した後に取り出して冷まします。この最初の揚げで表面のでんぷん質が変質して防護膜ができ中心部の水分を閉じ込めることができるのです。続く二度目の揚げで閉じ込められた蒸気が内部を巡って中身は蒸し焼き状態に。その結果「外はカリっと中はふんわり」という最高の状態に仕上がるのです。

とある和食の巨匠が「天婦羅は蒸し料理です」と昔テレビで言っていたのを覚えているのですが、天婦羅がサクふわに仕上がるのと、フライドポテトがカリふわに仕上がる原理は全く同じですね。

(まさにシンプルにして合理的なケミカルクッキング…フライドポテトのでんぷんにまつわる話は奥は深すぎるので今回はこのへんで割愛。後日化学記事書きます)

味付けはシンプルに塩のみで行い、下記評価項目で勝者を決定します

  1. 調理工程の簡単さ(3点)
  2. 見た目の美しさ(3点)
  3. 美味しさ(4点)
  4. 特記事項(3点)

を軸に王者たる芋を決定します。

 

試合実況

それでは試合開始!かかる手間や時間も評価に含めます。

下処理編

まずは下処理をします。ジャガイモ・里芋・長芋は、スーパーで買ってきたものを常温においておき、そのまま皮をむきます。

ジャガイモはご存知の通り芽や茎にソラニンという毒素があるので食べてしまわないように丁寧に取り除きます。放射線照射によって芽が出にくくなっているとはいえ、やっぱり何日もほったらかして置いておいたら出てきますね。厄介だ(ものぐさmorokitchの自業自得である)。フランス人は反射的にこれを拍子切りにしてしまうのですが、今回はジャーマンポテトに入れる時のように大きめのくし切りに。揚げるときに芋同士がくっつかないように水にさらしたのちペーパーで乾かしてあげます。

長芋は、藁のついたままピーラーを使って皮むき。正直者のように真っすぐ育ってくれているおかげで何とも剥きやすい。その後の包丁カットはどうもぬるぬる滑ってしまうので慎重に。苦手な方は酢水に浸けると滑りにくくなるのでオススメです。なお、敏腕料理人morokitchは気にせずガンガン切ります(めんどくさいだけ)。

一番面倒だったのは里芋。もじゃもじゃしていてピーラーの刃は立たないし、ぬるぬるのぬる!長芋と違って形もごろっとしているので手間がかかります。手と面の皮が厚い敏腕料理人morokitch(言いたいだけ)なら大丈夫でしたが、あまり長時間ぬるぬるに触っているとかゆくなったりすることがあります。これは、シュウ酸カルシウムという針状の小さな結晶が指に刺さってしまうために起こります。しかも、ぬるぬる(ムチンという多糖類に低分子のタンパク質が結合したもの)のせいで水で洗ってもなかなか落ちにくい…捕食者から身を守るすべを尽くしていますね。

さて、その一方でキャッサバ芋は…?どれどれ袋を見てみると

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「凍ったまま油で揚げてください」とあります。

ブラボー!!優勝に一歩近づきました!

ちなみに写真にある「マンジョッカ」とはブラジルやアルゼンチンでのキャッサバ芋の呼び名で「マオニク」ということも。また、ペルーのようなスペイン語圏だと「ユカ」と呼ばれたりします。名称のめんどくささは今回の評価には加えないこととしましょう。

 

揚げ編

順番に油にポーンしました。ジャガイモはすっと沈んでじゅわわわと心地よい音を立ててくれます。里芋は粘りっけのせいか少しパチパチと激しめ。続く長芋も同様です。最後にキャッサバ芋をポーンすると

バチバチバチバチ!!」

そりゃそうだ、氷の膜がついていたからな(泣)

緊急避難して10秒ほどすると大人しくなったので、丁寧に薄氷をはがしたもう一片を入れると

バチバチバチバチ!!」

なんでやねんを心の中で叫びつつ、台所に容赦なく飛び散る油をなすすべなく眺める羽目になりました(´;ω;`)

 

さて、ちょっと時間がたったところで様子を見てみると、かなり個体差が見られました。長芋と里芋の色づきが非常に速いのです(写真はのちに色の変化を見るために一斉にポーンして同じ時間揚げたもの)。

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焦がしてしまっては台無しなので、この二者だけは先に湯あがりすることに決定。さらにもうしばらくするとジャガイモもいい色に揚がりました。ところでキャッサバはというと、まだまだまっしろ。凍ってたからやむを得ないか。とさらに揚がるまで待つこと五分超。長すぎるやろお腹すいたわ(笑)

一度取り出して冷ました後、すっかり湯冷めしたジャガイモ・里芋・長芋と共に二度目の揚げフェーズに入ります。うん。いい感じに仕上がりました!

盛り付け編

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こうやって並べてみるだけでも違いが判って面白いですね。

水分量の多いジャガイモ・里芋は表面がぷっくり膨らんでかわいらしい。その一方で、キャッサバ芋は切り株の如くパリッとした佇まい。長芋はカリっと揚がっているもののつややかで水っぽい見た目をしています。四者四様の良さを備えています。

ただし、里芋と長芋の中まで火を通すのにはどうしても黒っぽくなるまで揚げる必要がありました。うーーーん、惜しい!

ではでは、実食といきましょう

 

結果発表(実食)

ジャガイモ

  1. 調理の簡単さ:★☆☆
  2. 見た目の美しさ:★★☆
  3. 美味しさ:★★★☆
  4. 絶妙なカリふわ:★★☆

「これぞ我らのスタンダード」ということで得点はこれを基準に浸けていくことにします。マクドナルドの細長いあいつもいいけど、贅沢に大きく切った方が食感が嬉しいですね。食指をくすぐるキツネ色もgood。分厚く切っても色味が調節できるって、当たり前ではない特性だったんだなぁなんていろいろ揚げてみて思いました。

結果は8点です!

 

里芋

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  • 調理の簡単さ:☆☆☆
  • 見た目の美しさ:★☆☆
  • 美味しさ:★★☆☆
  • ヘルシー健康:★☆☆

手間のかかる割には見た目が今一つ。黒っぽくて、ジャガイモフライドポテトの下位互換といった印象。やっぱり里芋は煮物がいい気がしました。カリふわを期待してかじってみると、なんと!カリッの後に特有のぬめりがまだ生きている!日本人が遺伝子レベルで好きなこの食感、醤油ベースのあんかけにして食べれば最高な気がする…!外側もしっかり膜を張っており、蒸し焼き効果が見られます。

ちなみに里芋さんは芋界の中で熱中症対策に有効なカリウムが最も豊富で、逆に炭水化物量は一番少ないんだとか。いや、せっかくヘルシーなのに揚げるなよという感じですね(笑)

結果は5点です!

 

長芋

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  • 調理の簡単さ:★☆☆
  • 見た目の美しさ:★☆☆
  • 美味しさ:★★★☆
  • 泡の食感:★★☆

こちらも見た目がイマイチ。では味はいかがか?

かじってみると「えっ?なんだこれ?」ジュワっという暑さと共に、繊維が壊れて溶け行くような新しい舌ざわり。例えていうなら、霜柱を靴で踏みつぶすような快感がありました。焼いても生でも、そして揚げても独特の食感を提示してくれる食材としてのポテンシャルの高さに脱帽しました。

結果は7点です!

 

キャッサバ芋

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  • 調理の簡単さ:★★☆
  • 見た目の美しさ:★★☆
  • 美味しさ:★★★☆
  • 冷めても美味しい:★★★

個人的には樹木を思わせる見た目が好き(笑) 非常に焦げにくくこんがりきつね色に揚げられる点もgoodです。

ほくほくを期待して口に入れると「フランスパン?!」少しかじっただけでパイを割ったかのようなこのザクザク感。予想に反したこの食感、たまらん…!特に強調すべきはその食味の保存性でしょう。一通り味見した後はどうしてもべちゃっとしてしまいますが、キャッサバ芋だけはいつまでたってもカリカリのまま美味しく食べられます!もしキャッサバ芋が日本のファミレスや居酒屋に浸透すれば「冷めちゃったから」という理由の食べ残しが激減するだろうなぁなんて思いました。

ちょっと欲を言うと、マヨネーズ・ケチャップ・マスタードあたりが欲しくなる味わいです。塩だけでも美味しいんだけどね。

結果は10点です!

 

総括

以上、フライドポテト王者決定戦の食レポでした。

キャッサバ芋がとりわけ美味しかった印象ですが、美味しさとカロリーは常に隣り合わせ。ジャガイモのでんぷんが12~16%程度なのに対してキャッサバ芋は20%もあります。いわゆる糖質が多いわけです。

 

参考:

キャッサバABC

ジャガイモのデンプン含量が調理特性に及ぼす影響-J-Stage

 

ちなみに色づくまで時間がかかったのもこれが原因。里芋や長芋はでんぷん量が少なかったために焦げやすかったのです。でんぷんの粒子の大きさなんかにも言及したいのですが、長くなるので今日はここまでにしましょう。

 

え?さつまいもを忘れてるって?

あれはあまりに美味しすぎるので殿堂入りということにしましょう…蜂蜜バター付けると美味しいよね(買い忘れただけです(m´・ω・`)m ゴメン)

 

なお、キャッサバ芋は五反田のペルー領事館横の「キョウダイマーケット」さんで購入できますが、基本的に通販では買えません!五反田まで足を運ぶか、ラテン系の料理屋さんに行きましょう。あるいはうちに来てもいいですよ(笑)

(今後輸入量が増えれば一般にも出回るかもしれないので一応ショップリンクも貼っておきます)