旬彩もろきち

料理研究家や料理人、料理を愛する人のために、食の魅力や食文化の知識を発信します。また、飲食店経営のための経営学的知識や、ワンランク上の料理をするための科学的知識もあわせて紹介します。

人気ペルー料理店『bepocah』のデグスタシオン・コースを徹底解剖してみた

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 国内のペルー料理店の中でも最も大きく、世界的に認知されているのがここペルー料理店『bepocah』 です。

魅力的な料理がたくさんありますが、今回は5,800円の『デグスタシオンコース』で提供される6品について、料理人という目線から解説したいと思います。

(かなり踏み込んだ内容になっています。ネタバレが嫌な方はご自身で食べに行ってからこのページで答え合わせ(?)することをお勧めします。なお、今回紹介するのは2019年10月2日に来店した当時のメニューです)

 

 本日の鮮魚のセビチェ(Cebiche de pesca del día )

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新鮮なイサキを使ったペルー風カルパッチョ、セビーチェ。

多くの店では原価を抑えるためにレモンで仕込むことが多いのだが、ここはペルーの”リモン”に最も味が近いといわれるキーライム(レモンの倍以上の価格)を利用していた。イサキの身をライムの漬け汁に浸した時間は40秒ほどだろうか。シャープな酸味が生き生きしており、それでいて鮮魚の旨味を殺さないバランスがとれていた。アヒ(ペルー唐辛子)とコリアンダーは名わき役に回っている。

付け合わせのさつまいもはオレンジジュースで煮込まれており、酸・塩・辛で構成されるセビーチェに、酸っぱさの調和を取りつつ甘味を足すという、シェフのこまやかなこだわりが見られた。

 

 

 カウサ( Causa rellena de cangrejo)

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 セルクルという円筒に入れて整形されるペルーのポテトサラダ、カウサ。

皿に薄く塗り広げられてたペルーの紫オリーブのソースとキヌアの上に可愛らしく飾られたエディブルフラワーが印象的。

bepocahでは内外に層が作られている。しかも、内側の層はさらに縦に三層(カニ身・サラダ・キヌア)に分けられており、魅せるために相当な手間暇をかけているのがわかる。一番面白いと感じたのが、サラダの層にほんの少しキュウリが入っていたこと。

国内のペルー料理店は現地志向が強く、大抵はアボカド、赤玉ねぎなどに限ったペルーらしい食材が重ねられるが、日本で一般的なポテサラレシピに含まれるキュウリを起用したのは、ペルー人シェフの日本文化へのリスペクトと見て取れる。

このいかにもモダンな造形から慣れ親しんだ食感が現れるのは”逆に”異国風である。

カツオの鉄板焼き (Bonito sellado a la plancha)

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店の個性が強く出る串焼き料理のアーティクーチョ。

王道の牛ハツを使ったものは一緒に来た友人から少し味見させてもらった。

ここは、漬けダレでガツンと勝負するというよりは、比較的淡泊な味つけであった。それによって素材を引き立つつ、フレッシュなワカタイ(ブラックミント)で作ったソースをかけることで「素材・タレ・ワカタイ」の三者で「質・味・香」バランスを取っていた。

さて、カツオの鉄板焼きも同様の味付けであろう。ミディアムに火入れされた身は「カツオのたたき」をおもわせる香気を有していながら、焼き物としての食べ応えもしっかり確保されていた(何より、魚の鮮度の良さを感じた)。

付け合わせのベイクドポテトの火入れも絶妙で、カリっと仕上がった表面とホクホクした中身のギャップが嬉しい。

アヒデガジーナキヌア添え(Aji de gallina con municón de quinua)

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 ペルーのシチューとして親しまれているアヒデガジーナ。

親鳥を使って煮込んでおり、濃厚な旨味を感じた。それもあって肉質は比較的固く、ささみを思わせるような噛み心地だった。

 ふつうはご飯と共に供されるのだが、下には(この後にご飯ものがあるので)キヌアのバター炒めが敷かれていて、カウサの時とはまた違うやんわりした風味がある。

しかし、ややご飯の重量には劣るので、物足りなく感じた。

個人的な好みもあるかもしれないが、ここは香ばしく焼いたバゲットと一緒にガリっと頂きたかった。カウサやこの後のご飯ものとの差別化もできてよいと思うのだが、どうだろうか。。。

 

和牛のコリアンダー煮込み丼ぶり風(Seco de res "wagyu", estlio "donburi")

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豚や鳥でも作られるコリアンダーの煮込み料理。 

低温調理によってじわじわ火入れされた和牛は、固くならず口の中で柔らかくとほどけた。コリアンダーの特有の香りも火入れによって抑えられているので、苦手な人でも満足に食べられると思う。

先ほどとは打って変わってご飯はガーリックライス。パンチもあってそれだけで楽しめる。思わず箸でかき込みたくなるような、ジャンキーな魅惑の味だった。

 

アグアイマントのソルベ(Sorbete de aguaymanto)

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ここで初めて「アグアイマント」を口にした。

食用ホオズキで、インカベリーという呼び方が日本で浸透している。

ミントを思わせるような爽やかなえぐみを感じる。あたかも複数のハーブを調合したかのような複雑な味わいだが、これが1つの果物から作られているから驚きである。まさに素材の一本勝ち。

なお、同席した友人はペルーの木の実「ルクマ」のアイスクリームを注文。

濃厚なキャラメル風味のアイスはまったりしていて美味しい。シャープなアグアイマントとは打って変わって、わかりやすく安心できる甘味であった。

 

 

気づけば周りはほぼ満席。

予約を早いうちからとっておいた甲斐がありました。

このほかにも単品メニューや日替わり/月替わりのメニューがあるようで、何度来ても楽しめること間違いなし。

特別な日や、自分へのご褒美としてぜひべポカを試してみてください!

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