旬彩もろきち

料理研究家や料理人、料理を愛する人のために、食の魅力や食文化の知識を発信します。また、飲食店経営のための経営学的知識や、ワンランク上の料理をするための科学的知識もあわせて紹介します。

忘年会お料理係 京の料理人からアドバイス頂きました

こんにちは、morokitchです。

新年あけましておめでとうございます🎍🎍🎍2020年の始まりを皆さまはいかがおすごしでしょうか?私は年末年始の仕事を終えて、一足遅く正月休みをまったり過ごしています。椎茸の飾り切り2300個、磨いた鍋50個超…あぁ、思い出すだけでしんどい(´;ω;`)ウッ…

ということで、今日は少し時間をさかのぼり、12月にバイト先の忘年会で作った料理の報告をしようと思います。

 忘年会は必要か?

#忘年会スルー というハッシュタグで有名になった忘年会ですが、我々はバイト忘年会に全力でコミットしました。だって美味しもの食べれるし楽しいから(単純)

会社みたいな厳しい上下関係も少ないし、毎日毎日顔を合わせるわけではないので、心から忘年会を楽しめるのは学生アルバイトの特権かもしれませんね。

お料理係の私は予算9000円以内で19人分のオードブルをという条件を課せられて奮闘しました。店長から「気張らんと好きな物作りや〜」と言われたので気張りに気張ってカウサレジェーナ(ペルー風ポテトサラダ)を和風に寄せて仕立てることに(笑)

 

バイト先はお高めの和食料理屋ゆえに、ペルー料理を「和風」なんて言って忘年会に出してしまうのは命知らずがやる事です。

でも最近だと、かの有名な祇園ですら「京料理コース」なのに「グラタン」や「パフェ」を出したりするそうなので、多少やんちゃしてみても良いかなーと思ったり。

あとは、薄切りの大根で具材を丸めた一口サラダと、ごろごろ野菜ソースをかけた牛レアステーキというラインナップです。

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普段営業終了後に作るとかいうなかなかの厳しい時間条件でしたが、他の料理初心者バイトたちの手を借りて時間ギリギリに仕上がりました…笑

サラダの盛り付けまで自分で手を回せなかったのが心残りですがそこは純粋に手伝ってくれてありがとうと感謝です🌱

 

 忘年会メニューのさっくりレシピ

私が担当した料理の作り方は細部を端折りながらさっくり紹介します。

 

和風カウサ

  1. ジャガイモを鰹出汁で茹でて潰し、塩アヒアマリージョペーストとカボス果汁で味付け
  2. 酒とみりんを2:1で煮切り、醤油1を加えて薄切りにしたヒラマサを漬け込む
  3. 海老を70度で2分入れしてみじん切りのゆで卵と混ぜてカニ缶で味付け
  4. アボカドとカニカマを切って写真のように盛り付け。ソースはヨーグルトに出汁醤油を混ぜたものを使いました。

 

おまけ1:牛レアステーキ

  1. オリーブオイルで賽の目切りにした胡瓜、パプリカに優しく火入れする。少し柔らかくなったところでトマトを加えて塩胡椒で味付け
  2. 塩で下味をつけた牛肉ステーキを両面1分ずつ強火で焼き、側面をバーナーで炙る。アルミホイルで包んでしばらく休ませる
  3. 棒状に切り分け、井の字型に盛り付けて野菜ソースをかけて完成

 

おまけ2:一口サラダ

  1. 大根を薄く輪切りにして5%の塩水に柔らかくなるまで漬ける
  2. 千切り胡瓜、モッツァレラチーズ、トマト、サーモンを生ハムと大根で巻く。巻く前にパルメザンチーズやオリーブオイル、塩胡椒を少し振りかけておく。
  3. 茹でた三つ葉で解けないように結んで完成

 

あとはいつもお客さんに出している鍋を炊きました。やっぱりこれが最強🍲

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プロによる料理レビュー:創作和食に必要な2つの要素

宴会が始まって何より怖いのが、同席した京都の料理人3人に味の感想を聞く時間。しばらくすると一番若手の料理人から「もろちゃんこのポテサラは何使うてるん?」と質問が飛び、始まりました。 

「ええとこれはアヒアマリージョという南米の唐辛子とカボス果汁を隠し味にしてて、前菜のイメージであっさり仕立ててみました…」

私の説明を聞いて一口食べた店長の第一声は「ややこしいねん(笑)」でした。

 

いやぁーーわろてはるけどこれヒットせんやったのねー

内心で意味を察しダメージを受けるも、ここはむしろアドバイスを頂けるチャンスでは?確かに凝りすぎて時間がかかったし、ペルーと和が混在していて何が何だか分かりにくい。試作段階で作り込めていなかったので100%認めてもらえるとは正直思っていませんでした。

私が「正直なところ、エスニックな要素を上手く和食の範疇に落とし込めなかった感があって。どうすれば良かったですかね?」とアドバイスを乞うと、一番年配の料理人の方も話に加わって、和食談義が始まりました。

 

要約すると

  1. 現地の人間が食べて美味しいと思うものがエスニック料理
  2. 美味しい和食は極めてシンプル

という所でしょうか。

まず、1.について。

カウサはポテサラでありながら酸味が強めです。南米の日差しの強い地域や夏場に食べるとあっさりしていて美味しいと想像がつきますが、12月の日本では今一つ求められないなと。

生物学的観点で考えても、「美味しい」という感覚自体、生理的に必要な栄養素を体内に積極的に取り入れようとするための人間の生存戦略です。酢酸やクエン酸のようなすっぱい味の栄養素には、汗で失われがちなミネラル分の吸収を活発にする作用があります。でも、冬場ってそんなに汗かきませんよね。酢の物を冬場にあまり作らないのと同様に、ただでさえ真新しく警戒されがちなカウサを冬の日本で求められていなかったのかもしれません(もちろんペルーの食味を季節を問わずに作ることは大いにありえます)。

つまり、現地の風土と体の需要に合わせた味付けや食材の選択こそが相手をもてなすための基本姿勢であるということでしょう。morokitchは自分のやってみたいことが先行して、どうやらその点の配慮ができていなかったようです。

 

そして、2.について。これこそが今回得られた最も大きな収穫でした。

今回作った和風カウサでは、ヒラマサの醤油漬けとカウサの繋ぎに、醤油ヨーグルトソースを選定しました。結果として食味に色々な要素が加わり、かなり複雑な味になっていました。

ここでちょっと立ち止まって和食・京料理を考えてみます。皆さんが思い浮かべる高級和食はどんなものでしょうか?

てっさ(河豚の薄造り)、すっぽん鍋、鯛の塩焼き、幽庵焼き、季節野菜の天婦羅…

どれも味付けは極めて繊細で、調理工程も、「切る→下処理する→火を通す」で単純ですね。これこそが和食の神髄であり、できるだけ手を加えすに素材そのものの食味を楽しむ日本人の風雅の現れと言えそうです。このことから「創作和食」を作るならシンプルであれという方針が立てられそうです。

しかし、絶対に注意せねばならないのがそのシンプルさの中に高度な技術が伴わねばならないということでしょう。前回の記事でも述べましたが、すっぽんの下処理、焼き魚の串の打ち方と焼き方、天婦羅の油の温度管理など、研究や修行を重ねて身体に染み込ませてはじめて上述のような料理が作れるようになるということです。

※論旨からそれるので読み飛ばしていただいてもいいですが、このように和食のシンプルさは修得困難であるがゆえに誰かが「守る必要がある」のです。韓国スイーツやらイタリアンフレンチが先行して和食が流行らないこの時世に、本格和食は危機に瀕しているとも言えそうです(年長料理人談)

morokitch.hatenablog.com

 さて、今回の料理「和風カウサ」には技術に裏打ちされたシンプルさがありませんでした。ゆえに、様々な食材と調味料でごまかしを使わざるを得なくなり、俗っぽい仕上がりになったのかもしれません。

 

どうやって和食とペルー料理を融和させるのか

さて、要素2.を「美味しい和食は極めてシンプル」という風に書きましたが、『美味しいペルー料理は極めてシンプル』とも言えそうです。私はここに融和の可能性が潜んでいるのではないかとにらんでいます。

この『美味しいペルー料理は極めてシンプル』は、太田哲雄さんの「ペルー料理はシンプルな味付けで舌が疲れない」荒井隆宏さんの「ペルーのおふくろの味を求めて旅をした」という表現や、ソルーナの腕の立つペルー人店主がSimple is the bestを信条にしていることから推論したものです。

要するに、複雑な調理工程を経て作られる高級中華や宮廷料理から発達した韓国料理やフレンチとは異なり、家庭料理から発達拡大していった和食とペルー料理には高い親和性があるのではないかということです。

ゆえに、なんとかして、ペルー料理のシンプルさを下支えする技術や食材の選定方針を知ることができれば、和食への応用の可能性が開けると思われます。

 

カウサの裏ごし具合は?ロモサルタードのフランベの仕方やタイミングは?セビーチェの塩加減は?煮込み時間は?…

シンプル過ぎてネットでは仕入れられないような細かい情報は尽きません。

 

忘年会でちょっと料理しただけでしたが、こんなにも有意義なフィードバックと考える機会をいただけて幸いでした。次も機会があればお料理係を買って出たいなと思う限りでした🍳

 

現在のペルー料理修行の展望

さて、そのために私は大学院修士論文提出後の3月に、17日間ペルーに滞在して料理技術を探訪する旅に出ることにしました。

本当は内定先への入社時期を10月にして4月にバイトで資金調達、5~7月にペルー滞在という形式にしようと思っていたのですが、オリンピックでバタバタする関係か、内定先から4月入社に変更するように通達が来ました。なので、特に資金面で出発準備が整わないままの緊急発進になりました。

現状、知り合いの叔父が経営するペルーのレストランの厨房見学ができるかもしれない点、食文化博物館が無料で観覧できる点などが頼みの綱ですが、現地での書籍購入にかかる費用や、そもそも料理を食べる費用がない状態です(大学院の研究の傍らバイトで貯められる資金では、ペルーで1日当たり500円くらい使えるのがやっとで、超安宿の宿泊費だけで消えてなくなってしまいます…)。

そこで、フレンドファンディングを始めたところ、Polcaから5000円、直接手渡しで5000円の計1万円の支援をいただきました。いずれも懇意にしていた後輩からの支援で、信用してもらえることが嬉しい反面、必ず成果を持って帰ってこようと気が引き締まる思いでした。

なので、現状、1日あたりに900円くらい使える計算になります。生きて帰ること自体はできなくはないですが心許なさすぎることには変わりなく、まだまだ支援が必要な段階です。

https://polca.jp/projects/9XX1tc5oBXy

これから何度か声かけをすることになりますが、温かく見守っていただけると嬉しいです。進捗もその都度報告したいと思います。

それではまた次回!お読みいただきありがとうございました。