旬彩もろきち

料理研究家や料理人、料理を愛する人のために、食の魅力や食文化の知識を発信します。また、飲食店経営のための経営学的知識や、ワンランク上の料理をするための科学的知識もあわせて紹介します。

デジタル料理人とアナログ料理人

ご無沙汰しておりますmorokitchです。

大学院の論文執筆中で更新できていませんでしたが、とあるお願いのために急いで更新する運びとなりました。

まずは、最近の学びから紹介させていただきます。

 

デジタルとアナログの違いについて

(※基本事項はわかってるわいという方は読み飛ばしてください)

f:id:morokitch:20191227225153p:plain

 

「新しいテクノロジーがこれからの世界をガラリと変える!」

多くの方はこういう論調に対して、特に違和感を感じることもなく「そうだろうねぇ」と聞き流してきたのではないかと思います。

それもそのはず、既に日本社会のデジタル化は進んでいて、デジタル機器がコミュニケーションの取り方(SNS)、働き方(在宅ワーク)、購買方法(キャッシュレス決済)などと、次々に世界のシステムを変えてしまうことを容易に想像できるからです。

 

ところで、今話題のデジタルって一体どういう意味なんでしょう?

 

やや難しい言い方になりますが、デジタルは「離散値」をとるもので、対義語であるアナログは「連続値」をとるものです。

アナログーデジタルの具体的な例を見てみましょう。

  1. アナログ時計の秒針がゆっくり音を立てずに回るーデジタル時計の数字がチカチカ変わる
  2. 辞書のページをめくって探している単語を見つけるー電子辞書のキーボードを数文字叩いて検索予測の中から探している単語を見つける
  3. 事故現場に出向いて現地の様子を観察するーTwitterで事故現場の写真を見る

1. は連続値と離散値の違いが最も分かりやすい例でしょう。

アナログ時計は秒単位以下での正確性を兼ね備えており、その滑らかな動きで、一般的なデジタル時計では表現できない細かな時間の流れを表現できます。

しかし、実際問題、「1時12分23秒と24秒の間に秒針がある」なんてことはどうでもよく「今は1時12分だ」「1時13分になった」というような大雑把な情報さえわかればよいですよね。このように、デジタルはアナログの「別にどうでもよい細かな違い」を無視して必要な情報だけをピックアップしてくれます。

 

2. はデジタルの利便性がうかがえます。

アナログの紙の辞書の場合、1から10まで人の手によって考えながら網羅的に調べ上げる必要があります。一方で、予測変換機能は煩わしいあいうえお順の並びを考える作業が省略されるため、手軽に短時間で目的達成できます。

 

3. もデジタルの一面がうかがえる事象でしょう。今となっては写真という画像情報ひとつで多くのことを伝えることができます。動画を使えばなおさらでしょう。もちろん、事故現場の状況を知りたければそこに出向いたほうが、そこの雰囲気や気温あるいは匂いのようなより密度の高い情報を得ることができるでしょう。しかし、「A社の化学工場で事故があった」という情報を得たいのであれば、わざわざ危険を冒さずとも、定点カメラの写真などで大きな反応容器から煙が上がっている様子を見る方が安全かもしれません。

 

まとめましょう。

要するにデジタルは「情報のいいところどり」です。

誤解がないようにより厳密に定義するなら「デジタルとはアナログの連続性を捨象して必要最小限の単位を構成したもの」と表現できるでしょう。

 

料理の世界のデジタルとアナログ

さて、ここからが本題。デジタル化の波は料理の世界にも押し寄せています。

昔であれば、料理の練習をするためには、親や友人に教わったり、自宅で試行錯誤したり、調理専門学校に通ったり、飲食店で修業したりする必要がありました。

しかし、最近では、本やブログ、YouTubeを介して簡単に料理のコツやレシピが手に入ります。私自身、和食居酒屋で料理修行を経験したとはいえ、ペルー料理を作る際は『荒井商店のペルー料理』という本やネット情報を大いに参考にしてきました。

言ってしまえば、ありとあらゆる料理はネットの海からすくい上げて作ることができるのです(日本の反対側のペルー料理ですらほとんど作れるのですから大いに説得力があるでしょう)。

 

一見、料理の発展と多様化という観点からすると、この状況は好ましいと思われるかもしれません。しかし、ここに「連続性を捨象してしまうデジタルの落とし穴」があるのです。

 

料理を行うために欠かせない要素として「経験知」(暗黙知ということもある)があります。

私の作れる料理の中で最も経験知を必要とする料理は出汁巻き卵です。

ネットで分量や巻き方の動画で勉強し、全く同じガスコンロと角型鉄鍋を準備できたとしても、いくらプロの動きを真似したところで失敗を重ねることは容易に想像がつきますよね。私は、4人の料理人の出汁巻きを巻く時の手首の返し方を色んな角度から見せてもらいましたし、卵液を注ぐ直前の鉄鍋の温度を頬で感じたり、自分の巻き方や手足の位置を矯正してもらったり、出汁をたっぷり含んだ卵が鍋肌で蒸発する水分に浮かされて滑る感覚を何度も叩き込んだりしました…。

まだまだ書ききれませんが、これが私の中のアナログ情報の一部。対して、下記のレシピはデジタル情報です。

 

出汁巻き卵(大阪巻き)の作り方

f:id:morokitch:20191228014809j:image

  1. MSサイズの卵4個と出汁100ccを混ぜ、醤油10ccで味をつける
  2. 鉄鍋にたっぷり油を敷き強火にかける
  3. 鉄鍋から10㎝くらいのところに手か頬をかざし、充分熱くなっているのを確認してから卵液を鍋肌一杯分注ぎ入れる
  4. 強火のまま奥から手前に素早く巻き、熱い油を含ませたリードペーパーで再度油を敷きなおす
  5. 卵を奥に押しやって手前も油を敷き直し、再び卵液を鍋肌一杯に入れる
  6. 卵液が無くなるまで4.5を繰り返してまきすに取り、形を整えて完成

 

このレシピを再現しようとすると、3の温度の加減はわからないだろうし、そもそも巻くってどうやるの?という状態に陥るでしょう。料理長は私に出汁巻き卵の作り方を教える時、口癖のように「言葉でいうのは簡単やねんけどな」と言っていました。少なくとも料理というジャンルにおいては、直接体得しなければ得られない価値というものが存在するのです。

料理のような職人世界でアナログ情報がいかに大事かお判りいただけでしょうか?

本やネットで手に入るレシピや料理動画のようなデジタル情報では、調理の本質ともいえる経験知の多くが捨象されてしまっているのです。

 

デジタル料理人がもたらす弊害

ネット上で散見されるデジタル情報の数々…。専門家としての料理人はこの情報をいかに扱うべきでしょうか?

私自身、「本格ペルー料理○○のレシピ」のような表題をうって記事を書いたこともあります。もちろん、今までの料理経験とも照らし合わせながら自信をもって書いたものですが、もしかしたら「書いておくべき大事な情報」が欠けている可能性もあります。一方で、読者はそこに書かれたデジタル情報しか認識できないので、再現にあたって本来と異なる印象を与える可能性もあります。

 

2つほど、経験知の欠落した「デジタル料理人」の例を挙げて考えましょう。

1つ目は、店の新メニューを作る場合。ネットで調べた天ぷら作り方をそのまま真似てお客さんに出すとしましょう。揚げ衣の温度管理を怠ったり(氷などで冷やしておかないとぼってりした分厚い衣になる)、衣に使う粉の選別をないがしろにするとすぐに水分を含むべちゃっとした仕上がりになります。多くのレシピの場合、必要以上に細かい内容や素材の調達先は描かれていないため完璧な再現は困難を極めます(そして多くの場合中途半端なものが出来上がります)。

2つ目の例は、エスニック料理店を経営するような場合。お客さんは間違いなく現地の要素を求めて来店します。そこに、インターネットでご都合主義的にネット集めた料理を提供しているのでは、顧客ニーズに応えられているとは言えません。それどころか、消費者はデジタル料理屋が作る料理の一面を見ただけで「〇〇料理はこんなものか。当分は食べなくてもいいかな」という意思決定すらしかねません。

 

このように、情報拡散力や影響力の強い人間がデジタル情報のみに依存して知ったかぶりしてしまうと

①リピーターや口コミ来店の機会損失

②間違った常識の植え付け

等の大きな弊害が起きてしまうのです。

なので、ネットからのデジタル情報をもとに料理を作る場合は、何度も試作を行なって、自分の中でアナログ情報になるまで試行錯誤するべきなのです。

 

まとめとお願い

 デジタルは簡単に必要な情報を仕入れられる利便性を持つ反面、経験知のような重要な叡知を捨象してしまっている可能性があるということ。そして、職人技のような専門性を売りにするのならアナログな情報収集が欠かせないことを具体例たっぷりにお伝えしました。

 

さて、なんで今回こういうクリティカルな記事を書いたかというと、私のペルー料理武者修行の応援をしていただきたかったからです。

 

旅程は2020年の3/3から3/20。

リマに降り立って、世界の有名料理人御用達のミラフローレスの市場の探検、食の博物館観覧、現地でしか買えない図書の購入、レストランの厨房見学、在ペルー日本人の訪問。そこから食の都アレキパに移動して郷土料理の探訪と現地レストランの手伝い。最後にクスコに渡り、高地独特の食文化を体験して、クスコ空港から日本へ帰国となります(もともとは4月から三か月程度を予定していたのですが就職先の都合で短くなってしまいました)

 

貧乏学生であるものの、知ったかぶりペルー料理人にならないために、現地を見るべくたくさんバイトをして資金をためてきました。

修士論文のための研究の傍ら、バイトやふりかけご飯と共に節約生活を励行してためた金額は20万円…!

しかし、ペルーの渡航費だけで19万円もかかり、来月のパスポート発行で寧ろ赤字になってしまいます…。

これから引き続きバイト生活をするという選択肢もありますが、スペイン語の勉強に本腰を入れないと、治安面で心配のあるペルーから帰ること自体が難しくなり本末転倒になりかねません。

 

そこで、フレンドファンディングを使って応援を募ろうとを決心しました。

親からは「それは信用を担保にした借金だけどしっかり返す覚悟があるの?」という言葉を受けましたし、私自身、フレンドファンドの利用は最終手段とするつもりでした。それだけに、リターンは誠意をもって行いたいと考えています。

polca.jp

このリンク上では、1000円以上の寄付のリターンとして『旅行初心者の弾丸ペルー武者修行レポート&インスタアカウント公開』としていますが、小中高大学の同窓の方のような私との個人的なつながりのある方には3000円以上の寄付(1000円寄付×3回以上)で特別なお礼の追加も考えています。(下記のGoogleフォームから詳細確認ください)。

forms.gle

もちろん、私と直接的な関わりのない方でも支援しがいのあるリターンをするつもりです!

先述の『17日で3都市:弾丸ペルー料理武者修行レポート』は下記のような構成を予定しています。

  1. 渡航準備編:資金調達や渡航手続きスペイン語勉強の方法や経験以外にも国内で出会ったペルーに関わる人との出会いなども記載
  2. アクシデント編:旅行は高校生の頃に修学旅行で行ったオーストラリアのみ(地図から飛び出して迷子になった)。初の南米でアクシデント経験は不可避でしょう
  3. 料理編:写真付きでペルーの料理や食材を極めて詳しく紹介
  4. その他:クラウドファンディングの結果やブログでは書けないような内容など

面白おかしさと考えさせられるような文章が共存した価値のあるレポートにできればと考えております。

支援の動機は「ペルー料理と和食の可能性を広げるための活動を応援したい」だと嬉しいですが、それに限らず「スペイン語をほとんど喋れない京大院生が1ヶ月でどこまで成長できるか見てみたい」とか「ペルー旅行の参考にしたい」「面白いエピソードが読みたい」でも大歓迎です。

 

先にも述べたように、頂いた支援に対するリターンは誠意を込めて行う心づもりでいます。たとえ資金が十分に集まらなかった場合でも、数百円の安宿を渡り歩いて情報を稼ぐ覚悟でいます。

少しでも多くの方に活動の趣旨を理解いただき、協力の手を差し伸べて頂ければ幸いです…!

 

それでは、またの更新をお楽しみに(1月上旬に連載予定)!

良いお年をお迎えください!

 

※Polcaでの支援の方法は下記のとおりです。

  1. Polcaのアプリをインストールする
  2. 電話番号等を入力して会員登録をする
  3. morokitchのページ(URLからしか探せません)で応援ボタンを押すと決済情報入力画面に。クレジットカードまたはLINEPayの番号を入れる

こういう流れなので、まずはPolcaの会員登録を済ませたのち、こちらのリンクをクリックしてください。少々手間がかかりますがよろしくお願いいたします…!