旬彩もろきち

料理研究家や料理人、料理を愛する人のために、食の魅力や食文化の知識を発信します。また、飲食店経営のための経営学的知識や、ワンランク上の料理をするための科学的知識もあわせて紹介します。

高級塩でポトフを作ってはいけない!料理の迷信1

 

科学の視点で料理を見直してみる

高級塩の無駄遣いはやめよう

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わたしたちの生活に欠かせない塩。

今となっては、パキスタンの紅い岩塩や沖縄の海塩、フランスの職人たちが手作業で仕上げた最高級の天日塩フルール・ド・セルのような高級塩も流通するようになりました。贈り物として雑貨屋に陳列されていることもありますね。

 

せっかくだから、そんな格別の塩を美味しくいただきたい!

その際に絶対やるべきでないことがあります。

 

高級塩を料理に使う際の禁忌、それは、水に溶かすという行為です。

「何を言っているんだ、この塩はポトフの調味にうってつけと書いているぞ」

という声もあるかもしれません。

ゲランドの塩:おすすめレシピ | Alter Trade Japan

最高級塩ブランドのHPにもそのように書いてありますが、これは商機を増やすための商売文句でしょう。焼き物や揚げ物につけて食べるだけではなかなか使いきれず、次の商品を買ってもらえないからです。

 

今回は、香りづけのされていないシンプルな天然塩の、用途にまつわる迷信を解きます。

 

なぜ水に溶かしてはいけないのか

 理由はシンプルで、高級塩で作った塩水は、セール品の塩で作った塩水とほぼ同じになってしまうからです。

 

まず、高級塩の高級たるゆえんは、その結晶の大きさにあります。

粒子の細かいパウダーソルトは口に入れるとすぐに溶けきって、舌の感覚神経に刺激を与え、ダイレクトに塩辛さを呈します。

一方で、粒子の大きい塩は、グラムあたりの表面積が小さいので、口に入ってから溶けるまでに時間がかかります。

 

その結果、塩辛さの感じ方に差が生じるのです。つまり

「この塩は塩辛さがひかえめで食べやすいですね!」

というのは

「この塩は溶けるのが遅いから塩味がわかるまで時間がかかりますね!」

と言っているのと同義なのです。

 

ここで最高級の天日塩フルール・ド・セルの結晶を見てみましょう。

伯方の塩HPhttps://www.hakatanoshio.co.jp/sp/product/lineup/fleur-de-sel.htmlより

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フランスの最高級天日塩『フルール・ド・セル』の結晶

大小様々な結晶が寄り集まっており、化学的製法では作れないような複雑な形をしているのがわかります。まるで花のようなこの構造が、口に入ったときの絶妙な塩加減を演出し、世界の料理人たちをうならせているわけです。

 

このような塩の溶けやすさや舌ざわりといった物理的形状は、まとめて「テクスチャ―」と表現されます。

塩の良さである「テクスチャー」を楽しむためには天婦羅か冷やしトマトのように食材に塩を直接つけて食べるのがベストです。

 

 疑り深い人のために

 

🤔「塩の独特の香りがあるのでは?」

 

怪しいブログを見ると「○○塩のほんのりした香りが~」などと奇妙な宣伝をしていますが、抹茶塩やトリュフ塩のような添加物入りの加工塩か、ハワイアンソルトのような赤土の混ざった天然塩でない限りにおいがすることはありません。

塩に含まれる成分の蒸気圧は極めて高く、人間にその匂いは検知できないからです。

(後日、香りを感じるメカニズムについて追記します)

 

🤔「微量成分が塩味以外の味をもたらしているのでは?」

 

塩の微量成分にはカリウム・カルシウム・マグネシウム等があります。

HP広告の中には「塩味に加え甘みやまろみがあります」などと書いているものがありますが、甘み受容体に作用するものはありませんし、そもそも、まろみという言葉はあれど、そんな味は科学的に証明されていません。

また、『ぬちまーす』のような沖縄の塩は海水成分をふんだんに含んでおり、リチウム・モリブデン・ニッケルのような金属塩を微量含んでいます。

とはいえ、それらが金属味を呈するかというとさすがに含量が少なすぎます。

 

🤔「カルシウム味というのを聞いたことがあるけど?」

 

痛いところをついてきますね。

2008年にマウスの実験により、基本第六味としてカルシウム味がある可能性が示唆されました。人間にもそれがあり、塩ごとの微妙なカルシウム量の差を検知できるのであれば、塩にも味があるといそうです。

ちなみに、その論文作成に携わった研究員のマイケル・トルドフ博士は「カルシウム味は苦みに酸味が少し加わったようなものだ。適切に表現する言葉はなく、 『カルシウムっぽい』としかいいようがない」と述べていたそうです。

しかし、詳細はまだ不明な点が多く、今後の研究の進捗に期待することとします。

 

まとめ

塩は、水に溶けるとテクスチャ―が失われてしまい、一回当たりの使用量の少ない家庭料理や飲食店の料理ではどれも同じ塩水になってしまいます。

「甘みが増す」とか「ほんのり酸味のある」なんていう聞こえのいい宣伝文句に騙されることなく、素敵なソルトライフをお送りください。

 

「結局どれがいいのかわからないわ!」

という方は、ソルトソムリエのHPが参考になります。

ところどころ非科学的なこと(?)を言っている気がするのですが、塩の粒径と料理とのマッチングについてはハイセンスだと感じました。

粒の大きさならスーパーで自分の目で見て確かめられるはず。

わざわざ食品表示の微量成分を確認しなくても良いものが選べるようになるでしょう。