旬彩もろきち

料理研究家や料理人、料理を愛する人のために、食の魅力や食文化の知識を発信します。また、飲食店経営のための経営学的知識や、ワンランク上の料理をするための科学的知識もあわせて紹介します。

料理の勉強に役立つ5冊の本

こんにちは、morokitchです!

今回は、これまで私が読んできた数十冊の本の中から特に料理のためになる5冊をピックアップしました。

インターネットで検索すれば断片的に情報が出てくるものもありますが、あくまでそれは二番煎じであったり、ライターによって曲解されていて本来書籍で伝えようとしていた内容から大幅な変更を受けていたりします。そういった情報の正しさを検証しながらネットサーフィンするのは大変な苦痛ですし、事実、それをさぼって「不確かな情報」を信じてしまっている人が、料理人に関わらず大勢います。

きちんとした料理の教養や知識を身につけるためには価値のある本を一冊通して読み切る事がとても重要になります。そこで、料理の勉強をしたい人のために「これを読めば間違いない」といいきれる5冊をピックアップしました。全て異なるジャンルから選出しているので、興味のある領域の勉強にお役立てください!

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料理の科学:日常に潜む料理の迷信を科学で解き明かす

「パスタを茹でるときに塩を入れるのはなぜですか?」

パスタが柔らかくなるから?それとも固めてアルデンテにする効果があるから?ちょっと頭の回る人なら、お湯の沸点を上昇させるためなんて考える人もいるかもしれません(ちなみにどれも違います)。また、塩を入れるタイミングはいつがいいのでしょうか?水から?それとも沸騰してから…?普段気にも留めず行う調理工程1つとっても疑問は尽きませんね。

『料理の科学』はロバート・L・ウォルク著の一冊で、軽快なジョークも交えながらQ&A方式で料理科学の基本的なところなら応用的なところまでを解説しています。2巻立てになっていますが、特に1巻の調理基礎の部分が実践的で有用かなという印象を受けました。

料理の世界では「僕の師匠がこういうやり方でやってたからそうしているんです。意味は解らないんですけどね」なんていう口伝料理がかなり多く存在しています。意味が分かった上で料理をしない限りは効率化も新しい発見もできません。料理人としてワンランク上に行くための基礎知識が詰まった一冊です。

 

バルト、〈味覚の生理学〉を読む:ガストロノミー(美食術)の入門編

 皆さんはガストロノミーという言葉を聞いたことがあるでしょうか?ガストロノミーとは、食を美味しさだけでなく、見た目からもたらされる感動やその摂取によってもたらされる身体作用、また食卓を共にする人とのコミュニケーションなど、多角的な切り口によって解体し、その中でも最高の「美食」を求めようとする広い学問領域です。

料理を食べる時「舌の先→口の奥→飲み込んだ後」という経過ごとで味わい方の作法があるのですが、皆さんはどのように評価していますか?折角の高級料理でも漫然と飲み込んでしまってはいないでしょうか?

この本はガストロノミーの巨匠と呼ばれる大の食通ブリヤ=サヴァランという人が書いた美食の古典『味覚の生理学』を、言語学者のバルトが訳した上で、テキストとして読み解くという面白い構成の本です。ブリヤ=サヴァランの食の捉え方はもとより、それを言語化するにあたっての芸術性にも触れることができる一挙両得な内容になっています。

 

料理の四面体:世界に通じる料理のエッセンスを凝縮

「今でしょ」で一躍有名になった林修さんがテレビで紹介したのをきっかけに、この本のメルカリ在庫が無くなってしまいました(笑)

 通訳・観光・翻訳業をしながら世界を旅してまわった著者が、各国の料理技法の断片をまとめ、類似する料理間の共通点からその本質を導き出そうと試みる野心的な一冊です。

本編はアルジェリアの煮込み料理の作り方からフレンチまでの様々な料理の紹介と解釈が述べられており、流し読むだけでも面白いです。各章ごとに「では日本ではどうか」と、我々の食文化に落とし込んだ振り返りをしてくれるので、一般の解説書と比べて身につきやすい構成と感じました。

後半には、あらゆる料理(および調理過程)が内包されるという「料理の四面体」が紹介されています。これは、科学の世界で頻繁に用いられるモデル化という行為を料理でも行おうとした革新的な試みです。これを一冊読んでおくだけで、複雑多様な料理の世界をシンプルに見渡すことができるようになるでしょう。

 

「食」の課外授業:食べるってどういうことかを再考する

 ちょっと立ち止まって考えると「食べる」というのは非常に文化的な行為です。

5W1Hで考えてみましょう。食べるのが、ハレの日なのか葬儀後の会食なのか、仲のいい友達とか取引先の重役と名刺交換をしてからか、ファミレスでか寺でか、和食かエスニックか、火を通すのか生か、そしてそもそもなんで食べるのか…。

ちょっと条件を与えてやるだけで頭が痛くなりそうですが、私達は日々、これらすべての決定を一瞬で感覚的に行ってしまいます。この選択の判断基準になる食文化というものの解明を試みる過程で、私たちがいかにたくさんの偏見とわがままによって生きているのかがわかります。

さて、少し例を挙げましょう。

熱帯のとある国ではコウモリを食べます。「気持ち悪い」と思いますか?なんてことはない、そこではコウモリは鳥の仲間に分類されているのです。 また、別の国では日本人が大好きな卵を決して食べません。鳥の排泄物と考えられているからです…。

このように判断基準が少し異なるだけで食の認知の仕方はガラリと変わってしまうのです。

 

知っておきたい「食」の日本史:食の歴史は食の個性を物語る

 日本食知らずして料理語れず。いわんや世界の食をや。

ということでこの本もピックアップしました。

日本で肉食が禁止され他のちにまた流入して許容され始めるまでの経緯や、その過程でどんな食文化が発展してきたか、また、塩や砂糖、羊羹、スイカ、カルピスのような個々の食品がいかにして日本に伝来・定着したかを解説しています。

思わず「へぇ」と言ってしまうような気楽に読める歴史の本、そんなスタンスで書かれた文章は、まるで雑学の本でも読んでいるかのような気持ちにさせてくれます。

今ある日本食は古代からの「組み替え」の集大成。縄文時代から現代にかけてまでの日本食の成長を見れば、それがもはや日本だけの食でないことが身にしみてわかるでしょう。

 

さいごに

マニアックすぎることもあって今回は紹介しきれませんでしたが、料理や食材に関する網羅的な世界史の本や、名著『ジャガイモのきた道』のような一つの食材にフォーカスした本、あるいは、こういった下地を実践に落とし込んだレシピ本など、まだまだ面白い本はたくさんあります。

幕末の儒学者佐藤一斎の『言志晩録』には「少にして学べば即ち壮にして為すことあり…」に始まる一生勉強することの価値が述べられており、150年にも渡ってその言葉が語り継がれています。勉強できるのであれば、何冊も何冊も読むに越したことはありません。今回紹介した5冊のうちのどれか一つでも、読者の皆さんの興味をそそれたなら幸いです。

なお、先述のマニアック本たちは、自分の中で体系立ってきたら、記事にして紹介しようと思いますのでどうぞお楽しみに。