旬彩もろきち

料理研究家や料理人、料理を愛する人のために、食の魅力や食文化の知識を発信します。また、飲食店経営のための経営学的知識や、ワンランク上の料理をするための科学的知識もあわせて紹介します。

ペルーで生まれた最先端和食~ニッケイ料理とニッケイフュージョン料理~:食文化講義4

こんにちは、morokitchです。

今日はペルー料理と和食の深~いかかわりについての記事を書くことにしました。

 

さて、皆さんは世界の美食家の注目を集めている『ニッケイフュージョン料理』という新ジャンル料理をご存じでしょうか?これは、世界美食国ランキング1位を獲得したペルー料理と我が国日本の伝統和食とが融合した最先端料理です。

ペルーで最も美食家に愛されているのが日系3世のツムラ・ミツハルシェフによるMAIDOでしょう。

www.theworlds50best.com

MAIDOはThe World's Best 50 Restaurants 2019の10位にランクインしている超有名店で、ジューシーに焼き上げた鱈を味噌とナッツで和えた料理や、ウニライス、50時間かけて作った牛ショートリブ、豆腐チーズケーキアイスクリームなど前衛的な和食とペルー料理のマリアージュが楽しめます。

では、このようなニッケイフュージョン料理はいかにしてペルーで醸成されたのでしょうか?時代を1910年にまでさかのぼり、日本の移民がペルーで守り続けていた和食と、それがペルーの政治や文化に与えた影響から答えてみましょう。

ペルーにみられる料理の種類

まずは、ペルーならではの料理をジャンル分けしましょう。ざっくりと分けて下記の4種の料理が見られます。

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ペルー料理の進化・拡大の過程

まず、ペルー料理は古くからペルーで食べられている伝統料理です。魚を角切りにしてレモン果汁で締めたセビーチェという料理や、牛の心臓(ハツ)を唐辛子ベースのタレに浸けて作ったアンティクーチョ、南瓜をつぶして揚げて黒糖ソースをかけたピカロネスというおやつなどシンプルなものが多いです。

※さらに詳しく分けると真の伝統料理と1521年にスペインがインカ帝国に侵攻してから生まれた西欧風のクリオーリャ料理、三角貿易が活発になってから流入したアフリカ系ペルー料理に分けることができますが、ここでは同一料理として扱います。

そして、ペルーに定住を始めた中国人が広めたチーファという中華風ペルー料理。もともとペルーも中国も肉食文化があったので融和しやすく、かなり早い段階からペルー人に認められていきました。輸入コストの高い本格中華ではなく、ペルーで手に入る食材を代わりに使うことで作られているのが特徴です。初めにペルーで開店した中華料理屋の店名がチーファだったことからそれ以降に開店したあらゆる中華料理全般がチーファと呼ばれるようになったんだとか。

ここからが、今日の本題。

ニッケイ料理は、ペルーへ渡った日本人の子供(日系2世)が作った料理です。彼らは日系1世の親が作る日本料理の影響を強く受けつつも、自分自身はペルー人として生活しており、自然と日本とペルーを融和させた料理を作ることができました。ロシータ・ジムラによる薄切りのタコをペルーの紫オリーブソースで和えた「プルポアラオリーボ」を始めとする料理が代表的です。

そして、ニッケイフュージョン料理。これは大きく2種類に分けることができます。

1つ目は、日本やペルー日系人の板前がペルーに渡って作り上げた高級志向のフュージョン料理。寿司にみられるような高度な包丁技術や洗練された色彩感覚をペルーに取り入れたものになっています。

2つ目は、ニッケイ料理やニッケイフュージョン料理のブームに乗じて日本で料理修行をした日系2,3,4世らが作り出した大衆向けのフュージョン料理。今や日本文化ともいえるようになったラーメン、カレー、丼といったようなメニューです。「高くて量が少ない」高級志向のフュージョン料理と「安くて量の多い」ペルー料理の中間の選択肢である「そこそこの値段でしっかり食べられる」を提供したという点が特徴でしょう。

これらを図示すると下記のようになります。

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新しいペルー料理と和食との歴史的な関わり

 ニッケイ料理の誕生経緯:日系1世が守り抜いた和食の神髄

大まかな分類はわかっていただけたでしょうか。まずは、ニッケイ料理の誕生経緯を見てみましょう。ニッケイ料理は、先ほども述べたように『ペルーへ渡った日本人の子供(日系2世)が編み出した料理』です。

ところで、どうして「日系」と呼ばれる人たちが誕生したのでしょうか?

1899年4月3日に初めて日本人移民がペルーに渡りました。彼らは半奴隷的な苦力(クーリー)と呼ばれる中国人労働者の代わりに雇われた契約移民です。当時、世界で砂糖が貴重な調味料として認識されていることもあって、サトウキビの栽培とその製糖に膨大な需要があったのです。1900年代の日本はまだ貧しい国でしたから、ペルーへの出稼ぎで大金を稼ぐことも可能だったのです。

彼らは「日系1世」と呼ばれ、食文化の違いに悩ませられながらもペルーで和食文化を保ちました。農場では干し肉なども配られましたが、肉食を禁じられている仏教徒はそれをかたくなに口にせず、来る日も来る日も塩がゆのみを食べていたそうな。口にするとしても、水で戻してから加熱調理するという方法を知らなかったため、固いままの肉を炙って食べることしかできなかったようです。日系1世にはペルーの食文化に否定的な人が多く、見慣れぬ食材避けて和食を食べることに苦心していました。

しかし、日本から持ってきた醤油や味噌も底をつきてしまいます。それを契機に、饅頭、大福、汁粉、餅、最中、羊羹、日本酒、うどん、そばなどを扱う小売業者も現れました。他にも、日本の野菜の栽培まで始まったそうです。世界の反対側のペルーでもしたたかに生きようとする日系1世たちの精神力には目を見張るものがありますね。

このようにしてペルーで守られた和食ですが、ほとんどペルー人の口に入るものではありませんでした。あくまで、日系1世が生粋の日本人であるというアイデンティティを保つために生産消費されていたのです。

 ニッケイ料理の誕生経緯:ペルー政府が生んだ料理と日系2世の活躍

日系2世は日系1世よりも恵まれた環境で育ったといえます。

2世は1世ほど日本へのこだわりはなく、ペルーの食文化にも抵抗なく慣れていきました。また、教育環境もより整っており、スペイン語を使いこなして現地のペルー人たちと関わるなかで、多少の違和感はあれど自分自身をペルー人として疑うことなく成長したのです。一方で、家庭内では1世が作る和食を口にしていましたから、和とペルー両方のエッセンスを同時に摂取した世代といえます。

彼らの料理が注目を浴びるようになったきっかけは食糧問題にありました。

1950年頃に首都のリマへの労働機会を求めた大規模な人口流入が起こりました。これに伴い、地方の低所得者がリマ周辺を不法占拠して住み着いてしまうという現象が恒常化しました(バリアーダスと呼ばれる)。ペルーはそれまで肉を中心とした食生活が送られてきましたが、これをきっかけにたんぱく源の不足が発生しました。

この状況を案じたペルー政府が魚介類の消費拡大運動をおこしました。これまで活用されてこなかった水産資源に注目したのです。そこで白羽の矢が立ったのが日系2世の料理人たち。彼らは日系1世の食教育もあって包丁技術に長け、魚の扱いにも慣れていました。日系2世たちは、その技術を以てペルー人の口に合った魚介料理を次々に世に提示していったのです。先述のプルポアラオリーボ(蛸の薄造りにオリーブソースをかけた料理)や、ティラディードのような刺身に唐辛子ソースをかけた料理もこの時期に生まれたといわれています。

こういった新しいペルー料理は、世界の美食家の注目を大いに集めました。1970年代の北米での和食ブームのあおりも受けながら、ニッケイ料理は急激にその文化的価値を高めたのです。このように、ニッケイ料理はペルーにおける移民の和食から単線的に派生したのでした。

ニッケイフュージョン料理の登場

一方で、ニッケイフュージョン料理は、ペルーに渡って変容したニッケイ料理と生粋の現代和食が再接触することによって生まれたものです。

高級志向のニッケイフュージョン料理がそのはしりで、先述のMAIDOのツムラ・ミツハルシェフ、HANZOのカスガ・ハジメシェフ、アメリカやメキシコにも支店を広げたディエゴ・オカシェフの3人が特に有名です。板前がペルーに渡って現地の食材で料理をするというのが典型ですが、続々とペルーでニッケイフュージョン料理を作る料理人が登場するにつれて一般ペルー人にも板前修業を乗り越えて料理人となるものも現れました。こうしてニッケイフュージョン料理は世界に通用する高級料理としての一角を築いたのです。

そして、こういったニッケイ要素の人気に乗じて生まれたのが大衆向けのニッケイフュージョン料理です。日本への出稼ぎを経験した日系人やペルー人が、ラーメン、かつ丼、カレー、餃子のような現代日本料理をペルーに輸入しました。リマに店を構えるラーメン屋NARUTOは、鉄腕アトムやワンピースのルフィ、ドラえもんキン肉マンなどの人形が飾られており、アニメ文化ごとクールジャパンを表現しています。私のような生粋の日本人からすると「なんとも雑多な(笑)」という印象ですが、これぞ海外から見たJapanなのでしょう。 


This photo of Naruto Japanese Food is courtesy of TripAdvisor

 

まとめ

ペルーで生まれた和食要素をもつ料理についておわかりいただけたでしょうか。

最初の日本からの移民の食傾向を受けて育った日系2世がニッケイ料理を作り、和とペルーの融合に世界の美食家らが高い文化的価値を見出しました。その流行に乗って、より洗練された板前文化をペルーに持ち込むことでニッケイフュージョン料理が生まれ、大衆にもラーメンのような和の食文化がもたらされ始めました。最後にもう一度、図を示しておきましょう。

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新しいペルー料理と和食との歴史的な関わり

このように食文化史から料理を分類しなおすことで「文化的価値の高い食」がどのようなものなのかを考えることができたのではないでしょうか。また、和食が世界でどのように活躍しているかを知る契機にもなったはずです。

より深く勉強したいという方は、今回の記事投稿にあたって参考にさせて頂いた、柳田利夫先生の『ペルーの和食 やわらかな多文化主義』をご覧ください。時系列に沿って、より詳細に日系人たちの食と生活がまとめられています。

 

フレンドファンディングについて

長い文章になりましたが読んでいただきありがとうございました。

さて、前回の記事にも書かせていただいていますが、私はペルー渡航にあたってフレンドファンディングでの資金調達を行っています。

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私は大学院修士論文提出後の3月に、17日間ペルーに滞在して料理技術を探訪する旅に出ることにしました。

本当は内定先への入社時期を10月にして4月にバイトで資金調達、5~7月にペルー滞在という形式にしようと思っていたのですが、オリンピックでバタバタする関係か、内定先から4月入社に変更するように通達が来ました。なので、特に資金面で出発準備が整わないままの緊急発進になりました。

現状、知り合いの叔父が経営するペルーのレストランの厨房見学ができるかもしれない点、食文化博物館が無料で観覧できる点などが頼みの綱ですが、現地での書籍購入にかかる費用や、そもそも料理を食べる費用がない状態です(大学院の研究の傍らバイトで貯められる資金では、ペルーで1日当たり500円くらい使えるのがやっとで、超安宿の宿泊費だけで消えてなくなってしまいます…)。

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前回の投稿でPolcaから5000円、直接手渡しで5000円の計1万円の支援をいただきました。ことをお伝えしましたが、本日さらにPolcaで5000円の支援を頂き、一日当たり1100円ほど使えるようになりました。本当にありがとうございます…!現段階でも、いろいろ覚悟して野宿や断食やらで数日節約すれば、クイ(天竺ネズミ/モルモット)やアルパカを使った中級層の料理も報告できるかもしれません。

しかし、日本でペルー人経営の料理屋を訪問しての体感ですが、やっぱりその店の料理を食べなければ詳しい話を聞くことはできません。おそらく市場でもいくつか商品を購入しない限り、カタコト日本人を相手にしてくれはしないでしょう。日本みたいに「アルパカの試食どうですか~」なんて文化があればいいのですが…。どうしても、資金不足な状態では仕入れられる情報に限界が伴います。

まだまだ資金は足りない状況ですが、キッチンの使える安宿に泊まって、現地のレシピブックや市場の生産者から聞いた方法で料理をしたり、あるいは、自分で作った料理をペルー人に食べてもらったりすることでより濃密なアナログ知識を仕入れたいと思っています。

下記リンクより趣旨や支援のお返し等の詳細をご覧いただけます。

ご協力いただけますと幸いです。

polca.jp

これから何度かフレンドファンディングの声かけをすることになりますが、温かく見守っていただけると嬉しいです。進捗もその都度報告しつつ、そろそろ、資金計画や行程表も発表したいと考えています。

それではまた次回!お読みいただきありがとうございました。

 

忘年会お料理係 京の料理人からアドバイス頂きました

こんにちは、morokitchです。

新年あけましておめでとうございます🎍🎍🎍2020年の始まりを皆さまはいかがおすごしでしょうか?私は年末年始の仕事を終えて、一足遅く正月休みをまったり過ごしています。椎茸の飾り切り2300個、磨いた鍋50個超…あぁ、思い出すだけでしんどい(´;ω;`)ウッ…

ということで、今日は少し時間をさかのぼり、12月にバイト先の忘年会で作った料理の報告をしようと思います。

 忘年会は必要か?

#忘年会スルー というハッシュタグで有名になった忘年会ですが、我々はバイト忘年会に全力でコミットしました。だって美味しもの食べれるし楽しいから(単純)

会社みたいな厳しい上下関係も少ないし、毎日毎日顔を合わせるわけではないので、心から忘年会を楽しめるのは学生アルバイトの特権かもしれませんね。

お料理係の私は予算9000円以内で19人分のオードブルをという条件を課せられて奮闘しました。店長から「気張らんと好きな物作りや〜」と言われたので気張りに気張ってカウサレジェーナ(ペルー風ポテトサラダ)を和風に寄せて仕立てることに(笑)

 

バイト先はお高めの和食料理屋ゆえに、ペルー料理を「和風」なんて言って忘年会に出してしまうのは命知らずがやる事です。

でも最近だと、かの有名な祇園ですら「京料理コース」なのに「グラタン」や「パフェ」を出したりするそうなので、多少やんちゃしてみても良いかなーと思ったり。

あとは、薄切りの大根で具材を丸めた一口サラダと、ごろごろ野菜ソースをかけた牛レアステーキというラインナップです。

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普段営業終了後に作るとかいうなかなかの厳しい時間条件でしたが、他の料理初心者バイトたちの手を借りて時間ギリギリに仕上がりました…笑

サラダの盛り付けまで自分で手を回せなかったのが心残りですがそこは純粋に手伝ってくれてありがとうと感謝です🌱

 

 忘年会メニューのさっくりレシピ

私が担当した料理の作り方は細部を端折りながらさっくり紹介します。

 

和風カウサ

  1. ジャガイモを鰹出汁で茹でて潰し、塩アヒアマリージョペーストとカボス果汁で味付け
  2. 酒とみりんを2:1で煮切り、醤油1を加えて薄切りにしたヒラマサを漬け込む
  3. 海老を70度で2分入れしてみじん切りのゆで卵と混ぜてカニ缶で味付け
  4. アボカドとカニカマを切って写真のように盛り付け。ソースはヨーグルトに出汁醤油を混ぜたものを使いました。

 

おまけ1:牛レアステーキ

  1. オリーブオイルで賽の目切りにした胡瓜、パプリカに優しく火入れする。少し柔らかくなったところでトマトを加えて塩胡椒で味付け
  2. 塩で下味をつけた牛肉ステーキを両面1分ずつ強火で焼き、側面をバーナーで炙る。アルミホイルで包んでしばらく休ませる
  3. 棒状に切り分け、井の字型に盛り付けて野菜ソースをかけて完成

 

おまけ2:一口サラダ

  1. 大根を薄く輪切りにして5%の塩水に柔らかくなるまで漬ける
  2. 千切り胡瓜、モッツァレラチーズ、トマト、サーモンを生ハムと大根で巻く。巻く前にパルメザンチーズやオリーブオイル、塩胡椒を少し振りかけておく。
  3. 茹でた三つ葉で解けないように結んで完成

 

あとはいつもお客さんに出している鍋を炊きました。やっぱりこれが最強🍲

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プロによる料理レビュー:創作和食に必要な2つの要素

宴会が始まって何より怖いのが、同席した京都の料理人3人に味の感想を聞く時間。しばらくすると一番若手の料理人から「もろちゃんこのポテサラは何使うてるん?」と質問が飛び、始まりました。 

「ええとこれはアヒアマリージョという南米の唐辛子とカボス果汁を隠し味にしてて、前菜のイメージであっさり仕立ててみました…」

私の説明を聞いて一口食べた店長の第一声は「ややこしいねん(笑)」でした。

 

いやぁーーわろてはるけどこれヒットせんやったのねー

内心で意味を察しダメージを受けるも、ここはむしろアドバイスを頂けるチャンスでは?確かに凝りすぎて時間がかかったし、ペルーと和が混在していて何が何だか分かりにくい。試作段階で作り込めていなかったので100%認めてもらえるとは正直思っていませんでした。

私が「正直なところ、エスニックな要素を上手く和食の範疇に落とし込めなかった感があって。どうすれば良かったですかね?」とアドバイスを乞うと、一番年配の料理人の方も話に加わって、和食談義が始まりました。

 

要約すると

  1. 現地の人間が食べて美味しいと思うものがエスニック料理
  2. 美味しい和食は極めてシンプル

という所でしょうか。

まず、1.について。

カウサはポテサラでありながら酸味が強めです。南米の日差しの強い地域や夏場に食べるとあっさりしていて美味しいと想像がつきますが、12月の日本では今一つ求められないなと。

生物学的観点で考えても、「美味しい」という感覚自体、生理的に必要な栄養素を体内に積極的に取り入れようとするための人間の生存戦略です。酢酸やクエン酸のようなすっぱい味の栄養素には、汗で失われがちなミネラル分の吸収を活発にする作用があります。でも、冬場ってそんなに汗かきませんよね。酢の物を冬場にあまり作らないのと同様に、ただでさえ真新しく警戒されがちなカウサを冬の日本で求められていなかったのかもしれません(もちろんペルーの食味を季節を問わずに作ることは大いにありえます)。

つまり、現地の風土と体の需要に合わせた味付けや食材の選択こそが相手をもてなすための基本姿勢であるということでしょう。morokitchは自分のやってみたいことが先行して、どうやらその点の配慮ができていなかったようです。

 

そして、2.について。これこそが今回得られた最も大きな収穫でした。

今回作った和風カウサでは、ヒラマサの醤油漬けとカウサの繋ぎに、醤油ヨーグルトソースを選定しました。結果として食味に色々な要素が加わり、かなり複雑な味になっていました。

ここでちょっと立ち止まって和食・京料理を考えてみます。皆さんが思い浮かべる高級和食はどんなものでしょうか?

てっさ(河豚の薄造り)、すっぽん鍋、鯛の塩焼き、幽庵焼き、季節野菜の天婦羅…

どれも味付けは極めて繊細で、調理工程も、「切る→下処理する→火を通す」で単純ですね。これこそが和食の神髄であり、できるだけ手を加えすに素材そのものの食味を楽しむ日本人の風雅の現れと言えそうです。このことから「創作和食」を作るならシンプルであれという方針が立てられそうです。

しかし、絶対に注意せねばならないのがそのシンプルさの中に高度な技術が伴わねばならないということでしょう。前回の記事でも述べましたが、すっぽんの下処理、焼き魚の串の打ち方と焼き方、天婦羅の油の温度管理など、研究や修行を重ねて身体に染み込ませてはじめて上述のような料理が作れるようになるということです。

※論旨からそれるので読み飛ばしていただいてもいいですが、このように和食のシンプルさは修得困難であるがゆえに誰かが「守る必要がある」のです。韓国スイーツやらイタリアンフレンチが先行して和食が流行らないこの時世に、本格和食は危機に瀕しているとも言えそうです(年長料理人談)

morokitch.hatenablog.com

 さて、今回の料理「和風カウサ」には技術に裏打ちされたシンプルさがありませんでした。ゆえに、様々な食材と調味料でごまかしを使わざるを得なくなり、俗っぽい仕上がりになったのかもしれません。

 

どうやって和食とペルー料理を融和させるのか

さて、要素2.を「美味しい和食は極めてシンプル」という風に書きましたが、『美味しいペルー料理は極めてシンプル』とも言えそうです。私はここに融和の可能性が潜んでいるのではないかとにらんでいます。

この『美味しいペルー料理は極めてシンプル』は、太田哲雄さんの「ペルー料理はシンプルな味付けで舌が疲れない」荒井隆宏さんの「ペルーのおふくろの味を求めて旅をした」という表現や、ソルーナの腕の立つペルー人店主がSimple is the bestを信条にしていることから推論したものです。

要するに、複雑な調理工程を経て作られる高級中華や宮廷料理から発達した韓国料理やフレンチとは異なり、家庭料理から発達拡大していった和食とペルー料理には高い親和性があるのではないかということです。

ゆえに、なんとかして、ペルー料理のシンプルさを下支えする技術や食材の選定方針を知ることができれば、和食への応用の可能性が開けると思われます。

 

カウサの裏ごし具合は?ロモサルタードのフランベの仕方やタイミングは?セビーチェの塩加減は?煮込み時間は?…

シンプル過ぎてネットでは仕入れられないような細かい情報は尽きません。

 

忘年会でちょっと料理しただけでしたが、こんなにも有意義なフィードバックと考える機会をいただけて幸いでした。次も機会があればお料理係を買って出たいなと思う限りでした🍳

 

現在のペルー料理修行の展望

さて、そのために私は大学院修士論文提出後の3月に、17日間ペルーに滞在して料理技術を探訪する旅に出ることにしました。

本当は内定先への入社時期を10月にして4月にバイトで資金調達、5~7月にペルー滞在という形式にしようと思っていたのですが、オリンピックでバタバタする関係か、内定先から4月入社に変更するように通達が来ました。なので、特に資金面で出発準備が整わないままの緊急発進になりました。

現状、知り合いの叔父が経営するペルーのレストランの厨房見学ができるかもしれない点、食文化博物館が無料で観覧できる点などが頼みの綱ですが、現地での書籍購入にかかる費用や、そもそも料理を食べる費用がない状態です(大学院の研究の傍らバイトで貯められる資金では、ペルーで1日当たり500円くらい使えるのがやっとで、超安宿の宿泊費だけで消えてなくなってしまいます…)。

そこで、フレンドファンディングを始めたところ、Polcaから5000円、直接手渡しで5000円の計1万円の支援をいただきました。いずれも懇意にしていた後輩からの支援で、信用してもらえることが嬉しい反面、必ず成果を持って帰ってこようと気が引き締まる思いでした。

なので、現状、1日あたりに900円くらい使える計算になります。生きて帰ること自体はできなくはないですが心許なさすぎることには変わりなく、まだまだ支援が必要な段階です。

https://polca.jp/projects/9XX1tc5oBXy

これから何度か声かけをすることになりますが、温かく見守っていただけると嬉しいです。進捗もその都度報告したいと思います。

それではまた次回!お読みいただきありがとうございました。

デジタル料理人とアナログ料理人

ご無沙汰しておりますmorokitchです。

大学院の論文執筆中で更新できていませんでしたが、とあるお願いのために急いで更新する運びとなりました。

まずは、最近の学びから紹介させていただきます。

 

デジタルとアナログの違いについて

(※基本事項はわかってるわいという方は読み飛ばしてください)

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「新しいテクノロジーがこれからの世界をガラリと変える!」

多くの方はこういう論調に対して、特に違和感を感じることもなく「そうだろうねぇ」と聞き流してきたのではないかと思います。

それもそのはず、既に日本社会のデジタル化は進んでいて、デジタル機器がコミュニケーションの取り方(SNS)、働き方(在宅ワーク)、購買方法(キャッシュレス決済)などと、次々に世界のシステムを変えてしまうことを容易に想像できるからです。

 

ところで、今話題のデジタルって一体どういう意味なんでしょう?

 

やや難しい言い方になりますが、デジタルは「離散値」をとるもので、対義語であるアナログは「連続値」をとるものです。

アナログーデジタルの具体的な例を見てみましょう。

  1. アナログ時計の秒針がゆっくり音を立てずに回るーデジタル時計の数字がチカチカ変わる
  2. 辞書のページをめくって探している単語を見つけるー電子辞書のキーボードを数文字叩いて検索予測の中から探している単語を見つける
  3. 事故現場に出向いて現地の様子を観察するーTwitterで事故現場の写真を見る

1. は連続値と離散値の違いが最も分かりやすい例でしょう。

アナログ時計は秒単位以下での正確性を兼ね備えており、その滑らかな動きで、一般的なデジタル時計では表現できない細かな時間の流れを表現できます。

しかし、実際問題、「1時12分23秒と24秒の間に秒針がある」なんてことはどうでもよく「今は1時12分だ」「1時13分になった」というような大雑把な情報さえわかればよいですよね。このように、デジタルはアナログの「別にどうでもよい細かな違い」を無視して必要な情報だけをピックアップしてくれます。

 

2. はデジタルの利便性がうかがえます。

アナログの紙の辞書の場合、1から10まで人の手によって考えながら網羅的に調べ上げる必要があります。一方で、予測変換機能は煩わしいあいうえお順の並びを考える作業が省略されるため、手軽に短時間で目的達成できます。

 

3. もデジタルの一面がうかがえる事象でしょう。今となっては写真という画像情報ひとつで多くのことを伝えることができます。動画を使えばなおさらでしょう。もちろん、事故現場の状況を知りたければそこに出向いたほうが、そこの雰囲気や気温あるいは匂いのようなより密度の高い情報を得ることができるでしょう。しかし、「A社の化学工場で事故があった」という情報を得たいのであれば、わざわざ危険を冒さずとも、定点カメラの写真などで大きな反応容器から煙が上がっている様子を見る方が安全かもしれません。

 

まとめましょう。

要するにデジタルは「情報のいいところどり」です。

誤解がないようにより厳密に定義するなら「デジタルとはアナログの連続性を捨象して必要最小限の単位を構成したもの」と表現できるでしょう。

 

料理の世界のデジタルとアナログ

さて、ここからが本題。デジタル化の波は料理の世界にも押し寄せています。

昔であれば、料理の練習をするためには、親や友人に教わったり、自宅で試行錯誤したり、調理専門学校に通ったり、飲食店で修業したりする必要がありました。

しかし、最近では、本やブログ、YouTubeを介して簡単に料理のコツやレシピが手に入ります。私自身、和食居酒屋で料理修行を経験したとはいえ、ペルー料理を作る際は『荒井商店のペルー料理』という本やネット情報を大いに参考にしてきました。

言ってしまえば、ありとあらゆる料理はネットの海からすくい上げて作ることができるのです(日本の反対側のペルー料理ですらほとんど作れるのですから大いに説得力があるでしょう)。

 

一見、料理の発展と多様化という観点からすると、この状況は好ましいと思われるかもしれません。しかし、ここに「連続性を捨象してしまうデジタルの落とし穴」があるのです。

 

料理を行うために欠かせない要素として「経験知」(暗黙知ということもある)があります。

私の作れる料理の中で最も経験知を必要とする料理は出汁巻き卵です。

ネットで分量や巻き方の動画で勉強し、全く同じガスコンロと角型鉄鍋を準備できたとしても、いくらプロの動きを真似したところで失敗を重ねることは容易に想像がつきますよね。私は、4人の料理人の出汁巻きを巻く時の手首の返し方を色んな角度から見せてもらいましたし、卵液を注ぐ直前の鉄鍋の温度を頬で感じたり、自分の巻き方や手足の位置を矯正してもらったり、出汁をたっぷり含んだ卵が鍋肌で蒸発する水分に浮かされて滑る感覚を何度も叩き込んだりしました…。

まだまだ書ききれませんが、これが私の中のアナログ情報の一部。対して、下記のレシピはデジタル情報です。

 

出汁巻き卵(大阪巻き)の作り方

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  1. MSサイズの卵4個と出汁100ccを混ぜ、醤油10ccで味をつける
  2. 鉄鍋にたっぷり油を敷き強火にかける
  3. 鉄鍋から10㎝くらいのところに手か頬をかざし、充分熱くなっているのを確認してから卵液を鍋肌一杯分注ぎ入れる
  4. 強火のまま奥から手前に素早く巻き、熱い油を含ませたリードペーパーで再度油を敷きなおす
  5. 卵を奥に押しやって手前も油を敷き直し、再び卵液を鍋肌一杯に入れる
  6. 卵液が無くなるまで4.5を繰り返してまきすに取り、形を整えて完成

 

このレシピを再現しようとすると、3の温度の加減はわからないだろうし、そもそも巻くってどうやるの?という状態に陥るでしょう。料理長は私に出汁巻き卵の作り方を教える時、口癖のように「言葉でいうのは簡単やねんけどな」と言っていました。少なくとも料理というジャンルにおいては、直接体得しなければ得られない価値というものが存在するのです。

料理のような職人世界でアナログ情報がいかに大事かお判りいただけでしょうか?

本やネットで手に入るレシピや料理動画のようなデジタル情報では、調理の本質ともいえる経験知の多くが捨象されてしまっているのです。

 

デジタル料理人がもたらす弊害

ネット上で散見されるデジタル情報の数々…。専門家としての料理人はこの情報をいかに扱うべきでしょうか?

私自身、「本格ペルー料理○○のレシピ」のような表題をうって記事を書いたこともあります。もちろん、今までの料理経験とも照らし合わせながら自信をもって書いたものですが、もしかしたら「書いておくべき大事な情報」が欠けている可能性もあります。一方で、読者はそこに書かれたデジタル情報しか認識できないので、再現にあたって本来と異なる印象を与える可能性もあります。

 

2つほど、経験知の欠落した「デジタル料理人」の例を挙げて考えましょう。

1つ目は、店の新メニューを作る場合。ネットで調べた天ぷら作り方をそのまま真似てお客さんに出すとしましょう。揚げ衣の温度管理を怠ったり(氷などで冷やしておかないとぼってりした分厚い衣になる)、衣に使う粉の選別をないがしろにするとすぐに水分を含むべちゃっとした仕上がりになります。多くのレシピの場合、必要以上に細かい内容や素材の調達先は描かれていないため完璧な再現は困難を極めます(そして多くの場合中途半端なものが出来上がります)。

2つ目の例は、エスニック料理店を経営するような場合。お客さんは間違いなく現地の要素を求めて来店します。そこに、インターネットでご都合主義的にネット集めた料理を提供しているのでは、顧客ニーズに応えられているとは言えません。それどころか、消費者はデジタル料理屋が作る料理の一面を見ただけで「〇〇料理はこんなものか。当分は食べなくてもいいかな」という意思決定すらしかねません。

 

このように、情報拡散力や影響力の強い人間がデジタル情報のみに依存して知ったかぶりしてしまうと

①リピーターや口コミ来店の機会損失

②間違った常識の植え付け

等の大きな弊害が起きてしまうのです。

なので、ネットからのデジタル情報をもとに料理を作る場合は、何度も試作を行なって、自分の中でアナログ情報になるまで試行錯誤するべきなのです。

 

まとめとお願い

 デジタルは簡単に必要な情報を仕入れられる利便性を持つ反面、経験知のような重要な叡知を捨象してしまっている可能性があるということ。そして、職人技のような専門性を売りにするのならアナログな情報収集が欠かせないことを具体例たっぷりにお伝えしました。

 

さて、なんで今回こういうクリティカルな記事を書いたかというと、私のペルー料理武者修行の応援をしていただきたかったからです。

 

旅程は2020年の3/3から3/20。

リマに降り立って、世界の有名料理人御用達のミラフローレスの市場の探検、食の博物館観覧、現地でしか買えない図書の購入、レストランの厨房見学、在ペルー日本人の訪問。そこから食の都アレキパに移動して郷土料理の探訪と現地レストランの手伝い。最後にクスコに渡り、高地独特の食文化を体験して、クスコ空港から日本へ帰国となります(もともとは4月から三か月程度を予定していたのですが就職先の都合で短くなってしまいました)

 

貧乏学生であるものの、知ったかぶりペルー料理人にならないために、現地を見るべくたくさんバイトをして資金をためてきました。

修士論文のための研究の傍ら、バイトやふりかけご飯と共に節約生活を励行してためた金額は20万円…!

しかし、ペルーの渡航費だけで19万円もかかり、来月のパスポート発行で寧ろ赤字になってしまいます…。

これから引き続きバイト生活をするという選択肢もありますが、スペイン語の勉強に本腰を入れないと、治安面で心配のあるペルーから帰ること自体が難しくなり本末転倒になりかねません。

 

そこで、フレンドファンディングを使って応援を募ろうとを決心しました。

親からは「それは信用を担保にした借金だけどしっかり返す覚悟があるの?」という言葉を受けましたし、私自身、フレンドファンドの利用は最終手段とするつもりでした。それだけに、リターンは誠意をもって行いたいと考えています。

polca.jp

このリンク上では、1000円以上の寄付のリターンとして『旅行初心者の弾丸ペルー武者修行レポート&インスタアカウント公開』としていますが、小中高大学の同窓の方のような私との個人的なつながりのある方には3000円以上の寄付(1000円寄付×3回以上)で特別なお礼の追加も考えています。(下記のGoogleフォームから詳細確認ください)。

forms.gle

もちろん、私と直接的な関わりのない方でも支援しがいのあるリターンをするつもりです!

先述の『17日で3都市:弾丸ペルー料理武者修行レポート』は下記のような構成を予定しています。

  1. 渡航準備編:資金調達や渡航手続きスペイン語勉強の方法や経験以外にも国内で出会ったペルーに関わる人との出会いなども記載
  2. アクシデント編:旅行は高校生の頃に修学旅行で行ったオーストラリアのみ(地図から飛び出して迷子になった)。初の南米でアクシデント経験は不可避でしょう
  3. 料理編:写真付きでペルーの料理や食材を極めて詳しく紹介
  4. その他:クラウドファンディングの結果やブログでは書けないような内容など

面白おかしさと考えさせられるような文章が共存した価値のあるレポートにできればと考えております。

支援の動機は「ペルー料理と和食の可能性を広げるための活動を応援したい」だと嬉しいですが、それに限らず「スペイン語をほとんど喋れない京大院生が1ヶ月でどこまで成長できるか見てみたい」とか「ペルー旅行の参考にしたい」「面白いエピソードが読みたい」でも大歓迎です。

 

先にも述べたように、頂いた支援に対するリターンは誠意を込めて行う心づもりでいます。たとえ資金が十分に集まらなかった場合でも、数百円の安宿を渡り歩いて情報を稼ぐ覚悟でいます。

少しでも多くの方に活動の趣旨を理解いただき、協力の手を差し伸べて頂ければ幸いです…!

 

それでは、またの更新をお楽しみに(1月上旬に連載予定)!

良いお年をお迎えください!

 

※Polcaでの支援の方法は下記のとおりです。

  1. Polcaのアプリをインストールする
  2. 電話番号等を入力して会員登録をする
  3. morokitchのページ(URLからしか探せません)で応援ボタンを押すと決済情報入力画面に。クレジットカードまたはLINEPayの番号を入れる

こういう流れなので、まずはPolcaの会員登録を済ませたのち、こちらのリンクをクリックしてください。少々手間がかかりますがよろしくお願いいたします…!

フライドポテト王者決定戦:一番旨い揚げ芋はどいつだ?タピオカの原料キャッサバ芋も参戦!

こんばんはmorokitchです。

今日のテーマはフライドポテトです🥔🥔🥔

フランスを発祥として世界各地に広がったフライドポテトは、ファーストフード業界で最も名を馳せた料理と言っても過言ではありません。一般的には『ジャガイモ』が用いられ、フランス人によるとベルギー産ジャガイモを使ったフライドポテトが最も美味しいんだとか。数ある揚げ料理の中では特に珍しく『素揚げ』するだけで作れてしまうというラクチンさが特徴でしょう。

さて、このフライドポテトですが、当然ほかの芋類でも作ることができます。

今回は

  • アンデス山脈代表:ジャガイモ
  • 東南アジア代表:里芋
  • 日本(中国説もある)代表:長芋
  • アマゾン代表:キャッサバ芋(タピオカの原料)

の4種を用意しました!

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ちなみに、キャッサバ芋はタピオカの原料で、わざわざ五反田から購入してきたレア物。このフライドポテトは、ペルーでは「ユカフリータス」という固有名まで与えられているいわば異国の手練れ。果たして労力に見合った結果を出してくれるのか?大きな期待がかかります。

では、この中から一番おいしいフライドポテトの王者を決定します!

 

 

ルール説明

まずはルール説明。フレンチの魂に則って、最も美味しくなると思われる方法でそれぞれの芋をフライドポテトにします。すなわち、二度揚げを行います。

大きめに切った芋を高温の油に放り込み、表面が色づく程度火を通した後に取り出して冷まします。この最初の揚げで表面のでんぷん質が変質して防護膜ができ中心部の水分を閉じ込めることができるのです。続く二度目の揚げで閉じ込められた蒸気が内部を巡って中身は蒸し焼き状態に。その結果「外はカリっと中はふんわり」という最高の状態に仕上がるのです。

とある和食の巨匠が「天婦羅は蒸し料理です」と昔テレビで言っていたのを覚えているのですが、天婦羅がサクふわに仕上がるのと、フライドポテトがカリふわに仕上がる原理は全く同じですね。

(まさにシンプルにして合理的なケミカルクッキング…フライドポテトのでんぷんにまつわる話は奥は深すぎるので今回はこのへんで割愛。後日化学記事書きます)

味付けはシンプルに塩のみで行い、下記評価項目で勝者を決定します

  1. 調理工程の簡単さ(3点)
  2. 見た目の美しさ(3点)
  3. 美味しさ(4点)
  4. 特記事項(3点)

を軸に王者たる芋を決定します。

 

試合実況

それでは試合開始!かかる手間や時間も評価に含めます。

下処理編

まずは下処理をします。ジャガイモ・里芋・長芋は、スーパーで買ってきたものを常温においておき、そのまま皮をむきます。

ジャガイモはご存知の通り芽や茎にソラニンという毒素があるので食べてしまわないように丁寧に取り除きます。放射線照射によって芽が出にくくなっているとはいえ、やっぱり何日もほったらかして置いておいたら出てきますね。厄介だ(ものぐさmorokitchの自業自得である)。フランス人は反射的にこれを拍子切りにしてしまうのですが、今回はジャーマンポテトに入れる時のように大きめのくし切りに。揚げるときに芋同士がくっつかないように水にさらしたのちペーパーで乾かしてあげます。

長芋は、藁のついたままピーラーを使って皮むき。正直者のように真っすぐ育ってくれているおかげで何とも剥きやすい。その後の包丁カットはどうもぬるぬる滑ってしまうので慎重に。苦手な方は酢水に浸けると滑りにくくなるのでオススメです。なお、敏腕料理人morokitchは気にせずガンガン切ります(めんどくさいだけ)。

一番面倒だったのは里芋。もじゃもじゃしていてピーラーの刃は立たないし、ぬるぬるのぬる!長芋と違って形もごろっとしているので手間がかかります。手と面の皮が厚い敏腕料理人morokitch(言いたいだけ)なら大丈夫でしたが、あまり長時間ぬるぬるに触っているとかゆくなったりすることがあります。これは、シュウ酸カルシウムという針状の小さな結晶が指に刺さってしまうために起こります。しかも、ぬるぬる(ムチンという多糖類に低分子のタンパク質が結合したもの)のせいで水で洗ってもなかなか落ちにくい…捕食者から身を守るすべを尽くしていますね。

さて、その一方でキャッサバ芋は…?どれどれ袋を見てみると

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「凍ったまま油で揚げてください」とあります。

ブラボー!!優勝に一歩近づきました!

ちなみに写真にある「マンジョッカ」とはブラジルやアルゼンチンでのキャッサバ芋の呼び名で「マオニク」ということも。また、ペルーのようなスペイン語圏だと「ユカ」と呼ばれたりします。名称のめんどくささは今回の評価には加えないこととしましょう。

 

揚げ編

順番に油にポーンしました。ジャガイモはすっと沈んでじゅわわわと心地よい音を立ててくれます。里芋は粘りっけのせいか少しパチパチと激しめ。続く長芋も同様です。最後にキャッサバ芋をポーンすると

バチバチバチバチ!!」

そりゃそうだ、氷の膜がついていたからな(泣)

緊急避難して10秒ほどすると大人しくなったので、丁寧に薄氷をはがしたもう一片を入れると

バチバチバチバチ!!」

なんでやねんを心の中で叫びつつ、台所に容赦なく飛び散る油をなすすべなく眺める羽目になりました(´;ω;`)

 

さて、ちょっと時間がたったところで様子を見てみると、かなり個体差が見られました。長芋と里芋の色づきが非常に速いのです(写真はのちに色の変化を見るために一斉にポーンして同じ時間揚げたもの)。

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焦がしてしまっては台無しなので、この二者だけは先に湯あがりすることに決定。さらにもうしばらくするとジャガイモもいい色に揚がりました。ところでキャッサバはというと、まだまだまっしろ。凍ってたからやむを得ないか。とさらに揚がるまで待つこと五分超。長すぎるやろお腹すいたわ(笑)

一度取り出して冷ました後、すっかり湯冷めしたジャガイモ・里芋・長芋と共に二度目の揚げフェーズに入ります。うん。いい感じに仕上がりました!

盛り付け編

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こうやって並べてみるだけでも違いが判って面白いですね。

水分量の多いジャガイモ・里芋は表面がぷっくり膨らんでかわいらしい。その一方で、キャッサバ芋は切り株の如くパリッとした佇まい。長芋はカリっと揚がっているもののつややかで水っぽい見た目をしています。四者四様の良さを備えています。

ただし、里芋と長芋の中まで火を通すのにはどうしても黒っぽくなるまで揚げる必要がありました。うーーーん、惜しい!

ではでは、実食といきましょう

 

結果発表(実食)

ジャガイモ

  1. 調理の簡単さ:★☆☆
  2. 見た目の美しさ:★★☆
  3. 美味しさ:★★★☆
  4. 絶妙なカリふわ:★★☆

「これぞ我らのスタンダード」ということで得点はこれを基準に浸けていくことにします。マクドナルドの細長いあいつもいいけど、贅沢に大きく切った方が食感が嬉しいですね。食指をくすぐるキツネ色もgood。分厚く切っても色味が調節できるって、当たり前ではない特性だったんだなぁなんていろいろ揚げてみて思いました。

結果は8点です!

 

里芋

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  • 調理の簡単さ:☆☆☆
  • 見た目の美しさ:★☆☆
  • 美味しさ:★★☆☆
  • ヘルシー健康:★☆☆

手間のかかる割には見た目が今一つ。黒っぽくて、ジャガイモフライドポテトの下位互換といった印象。やっぱり里芋は煮物がいい気がしました。カリふわを期待してかじってみると、なんと!カリッの後に特有のぬめりがまだ生きている!日本人が遺伝子レベルで好きなこの食感、醤油ベースのあんかけにして食べれば最高な気がする…!外側もしっかり膜を張っており、蒸し焼き効果が見られます。

ちなみに里芋さんは芋界の中で熱中症対策に有効なカリウムが最も豊富で、逆に炭水化物量は一番少ないんだとか。いや、せっかくヘルシーなのに揚げるなよという感じですね(笑)

結果は5点です!

 

長芋

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  • 調理の簡単さ:★☆☆
  • 見た目の美しさ:★☆☆
  • 美味しさ:★★★☆
  • 泡の食感:★★☆

こちらも見た目がイマイチ。では味はいかがか?

かじってみると「えっ?なんだこれ?」ジュワっという暑さと共に、繊維が壊れて溶け行くような新しい舌ざわり。例えていうなら、霜柱を靴で踏みつぶすような快感がありました。焼いても生でも、そして揚げても独特の食感を提示してくれる食材としてのポテンシャルの高さに脱帽しました。

結果は7点です!

 

キャッサバ芋

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  • 調理の簡単さ:★★☆
  • 見た目の美しさ:★★☆
  • 美味しさ:★★★☆
  • 冷めても美味しい:★★★

個人的には樹木を思わせる見た目が好き(笑) 非常に焦げにくくこんがりきつね色に揚げられる点もgoodです。

ほくほくを期待して口に入れると「フランスパン?!」少しかじっただけでパイを割ったかのようなこのザクザク感。予想に反したこの食感、たまらん…!特に強調すべきはその食味の保存性でしょう。一通り味見した後はどうしてもべちゃっとしてしまいますが、キャッサバ芋だけはいつまでたってもカリカリのまま美味しく食べられます!もしキャッサバ芋が日本のファミレスや居酒屋に浸透すれば「冷めちゃったから」という理由の食べ残しが激減するだろうなぁなんて思いました。

ちょっと欲を言うと、マヨネーズ・ケチャップ・マスタードあたりが欲しくなる味わいです。塩だけでも美味しいんだけどね。

結果は10点です!

 

総括

以上、フライドポテト王者決定戦の食レポでした。

キャッサバ芋がとりわけ美味しかった印象ですが、美味しさとカロリーは常に隣り合わせ。ジャガイモのでんぷんが12~16%程度なのに対してキャッサバ芋は20%もあります。いわゆる糖質が多いわけです。

 

参考:

キャッサバABC

ジャガイモのデンプン含量が調理特性に及ぼす影響-J-Stage

 

ちなみに色づくまで時間がかかったのもこれが原因。里芋や長芋はでんぷん量が少なかったために焦げやすかったのです。でんぷんの粒子の大きさなんかにも言及したいのですが、長くなるので今日はここまでにしましょう。

 

え?さつまいもを忘れてるって?

あれはあまりに美味しすぎるので殿堂入りということにしましょう…蜂蜜バター付けると美味しいよね(買い忘れただけです(m´・ω・`)m ゴメン)

 

なお、キャッサバ芋は五反田のペルー領事館横の「キョウダイマーケット」さんで購入できますが、基本的に通販では買えません!五反田まで足を運ぶか、ラテン系の料理屋さんに行きましょう。あるいはうちに来てもいいですよ(笑)

(今後輸入量が増えれば一般にも出回るかもしれないので一応ショップリンクも貼っておきます)

 

 

ゆる~いうさまるのキャラごはんでハートを射抜け!お月見うさまるカレーのレシピ

こんにちは、自称うさまらーのmorokitchです。

私の大好きなLINEスタンプ「うさまる」シリーズができてからなんともう5周年を迎えました!LINEスタンプも10を超え、目当てのスタンプを探すのにも一苦労といった状態です(笑)

東京や大阪を中心に開催される「うさまるカフェ」をはじめ、絵本やぬいぐるみやマグカップ、ハンカチにシールと、うさまるブームの勢いはとどまるところを知りません…!

 

しかしその一方でうさまるのコンセプト料理はどうでしょうか?

『うさまる キャラごはん』で検索してもキャラ弁しか出てきません。子供のためのお弁当となると、朝早く起きて手間暇かけなきゃいけないからキャラ弁はとてもハードルが高いですよね?

「どうせなら、休日の昼間や平日の夜のような余裕のある日にお家で楽しみながら家族・恋人・友達のために作りたい」そんなうさまらーたちの想いに応えられるようなレシピを作らねばならぬという使命感に駆られました。

 

うさまるキャラごはんがネットに無いなら作ってしまえということで、今回は『お月見うさまるカレー』を作りました!うさぎの大好物人参をたっぷり使った黄色いルーを欠けた月のように盛り付けて、影の部分をうさまるにしているのがチャームポイントです。

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ミキサーと100均にも売っているターメリックさえあればカンタンに作ることができ、好みに応じて具材のバリエーションをつけることも可能。しかも、子供に喜んでもらえるのはもちろん、気になるあの人の心をつかめるようなロマンチックなコンセプトまで盛り込んでみました(笑)

ぜひ『お月見うさまるカレー』を作って体も心も満たされましょう!

簡単!お月見うさまるカレーの作り方

◎準備するもの

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  • ミキサー
  • お鍋
  • 包丁・まな板・ピーラー

これだけです!

◎材料(4人前)

  • 人参:2本
  • 鶏むね肉:1枚
  • かつおだし:1L
  • 塩:大さじ1/2
  • ターメリック:大さじ1
  • 小麦粉:大さじ2
  • お好みの具材(今回はじゃがいもと玉ねぎです)
  • お好みのスパイス(今回はアヒアマリージョペースト※下記詳細
  • 飾り(海苔、ケチャップ)

◎レシピ

  1. ピーラーで皮をむいた人参と鶏むね肉を切って1Lのだし(水と味の素の顆粒だしスティックでOK)で茹でる
  2. 10分後、人参をミキサーに入れて分量外の水を入れてピュレにする
  3. 小さく切ったお好みの具材とピュレをお鍋に移し、塩・ターメリックを入れて、すべての具材が柔らかくなるまで煮込む
  4. 小麦粉を水に溶いて鍋に入れ、とろみをつける
  5. かわいく盛り付けて完成

 

好みに応じたアレンジや時短も可能!

煮込んで調味料を入れるだけなのですごく簡単ですね。このレシピなら油脂の使用がほとんどないので、インスタントや本格インドカレーと違って汚れもつきにくく、後片付けもちょちょいと済ませられます^^さらに、具材を変えることでもっと簡単に調理や片付けができたり、少し手を加えてアレンジすることだって可能です!

たとえば、鶏肉の代わりにベーコンを使うのも美味しかったのでオススメ!この場合、工程1は人参だけ茹で、工程3でほかの具材と一緒にベーコンを入れればOKです。生ものを使わずに済むので、まな板殺菌の手間も省けちゃいます。

また、辛みを足したい場合はガラムマサラを大さじ1加えてください。私はペルー料理の味わいが好きなのでアヒアマリージョペースト(鮮やかな黄色い唐辛子ペースト)大さじ1と牛乳100mLを加えました。もちろんスパイスなしでも美味しくいただけます。

 

飾り付けもラインスタンプを見ながら色んな表情を試せるから楽しさ無限大!慣れない人のために自在に海苔を切るためのコツも伝授します。

まず、鼻の部分は細く切った海苔を湿らせて折るようにしてやればカンタンにできます。乾いたままだと、ご飯の蒸気で丸まってしまうので気を付けましょう。

また、目を丸く切るのも、写真のように包丁の先端で押切りすれば確実にできます。

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初めてキャラごはんを作る場合は冷めてしまいがちなので、煮込んでいる途中に飾りを作っておくのがgood。ちなみにmorokitchはいざ盛り付けの段階で、頑張って作った海苔をルーの上に落として泣きました(´;ω;`)

 

ハートをわしづかみにする話題例

せっかく作ったうさまるカレー。あなたの大好きな人に食べてもらいましょう。

もちろん一緒に作ったり食べたりするだけでもあなたの株は爆上がりですが、ちょっと気の利いた話もできるとさらに仲が深まるはず…!家族や友達、上司まで、いろいろなケースでハートを掴める話題を考えてみました(笑)

 

◎子供に作ってあげる場合

 「お月様にはウサギさんがいるんだよ~」と作る前に何気なく話しておけば効果抜群。そのうえで子供の分だけルーの下にお餅を隠しておいてあげましょう。「うさぎさんが餅つきしてくれたのかな?」なんて洒落たセリフを決めればもうきっとあなたにメロメロでしょう。もし今日が満月なら食後に外に出て夜空を眺めてみるのもいいかもしれませんね。

また、人参が嫌いな子でもペーストにしてカレーにしてしまえば食べられるなんて事例が結構あります。小さい子なら「実はこれ人参は入ってたんだよ。食べられて偉いね」と褒めてやることで大人の階段を登らせてやることもできます。きっとそのあと機嫌が良くなるので皿洗いを手伝ってくれるかもしれませんね。

◎理系男子に作ってあげる場合

「ちょっと気になる理系学生が友達と一緒にうちに来た」なんてシチュエーションで使える話題も持っておきましょう。なお、大抵の理系男子は「おはよう」と言われた時点で恋に落ちていることがほとんどです。ましてや手料理を振舞われるとなれば結婚まで考えているかもしれません。なので、ほかに友達がいても分からないようなジャブを打つことであなたの好意をしっかり伝えられます。

例えば、化学専攻なら「このカレーはかつおだしと唐辛子で核酸系・アミノ酸系両方の旨味成分が入ってるからうんと美味しくなっているんだよ」と言えばイチコロ。きっと「イノシン酸グルタミン酸の相乗効果だね!」と嬉しそうに返してくれるはず。専門領域に少し興味がある様子を見せるだけで「この人はボクのことも好きなのかもしれない」と周りに気づかれることなく簡単にハートを掴めます。

同様に、物理専攻ならその人のご飯だけ楕円形に多めに盛って「物理好きな〇〇君のは地球から見える月の欠け具合を厳密に再現したよ」情報学専攻なら「1011110110110111!」といえば完璧ですね。

◎文系男子に作ってあげる場合

いわゆるウェーィ系ならOKですが、もし硬派な文系タイプの場合、有名な夏目漱石の"I love you"の邦訳「月がきれいですね」をそのまま使うのは絶対にやってはいけません。彼らは、文脈性の薄い環境下で月のメタファーを安易に転用することを嫌う傾向があるからです。

そこで、心理学の手法を使っていましょう。要は簡単「うさまるもかわいいけど、この月もきれいでしょう?」と言えばOKです。返事は「うん」とか「そうだね」程度かもしれませんが、ここには「うん(月がきれいだね)」というメッセージが含まれていることになります。相手にYesと言わせてラポール(信頼感)を獲得しつつ、同時に深層心理化でお互いに「好きです」と言い合っている状況を作ってしまうのです。これであなたのもとに後日彼から長文のポエムが届くに違いありません!

 

◎インテリ上司に作ってあげる場合

お月見うさまるカレーを作るだけでは、可愛らしい料理をつくる可愛らしい人という評価にとどまりかねません。年上男子にはメルヘンゆめかわよりも、ちょっと大人びたポイントを見せるのが効果的です。

そもそも、うさまるそのものが子供っぽい印象を与えてしまうかもしれません。そこで

「うさまるってこんなにかわいい感じだけど英語も堪能なの知ってました?すごく魅力的ですよね」と話を深めるのです。冗談っぽくうさまる英会話の本を見せて、場は和やかな状態を保ちますが、それとなく「知的な人に魅力を感じる」というメッセージを伝えることで「この人は、安易にうわべだけを見て人を選ぶわけじゃないんだな」という特別な評価をもらえることでしょう。いずれこの人と結婚できたなら、さらなる知性を身に着けようとバリバリ働いてくれること間違いなしです。安泰!

 

 ※流暢に英語を使いこなすうさまるは下記よりお確かめください

 

さて、後半は大分おふざけも入ってしまいました(笑)

とはいえ、月・人参・うさまるというコンセプトを一にした料理を作るだけでこんなにも話題が広がることをイメージしていただけたのではないでしょうか。アレンジをしたり一緒に作ったり、いつもよりほんの少し凝った料理をするだけで、食事の時間がずっと楽しくなるでしょう。

ぜひ『お月見うさまるカレー』を作ってみてください!

 

 

※記事の途中で紹介したアヒアマリージョペーストは下記の記事に詳細が書かれています。通販ショップの紹介もついています。

morokitch.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

料理の勉強に役立つ5冊の本

こんにちは、morokitchです!

今回は、これまで私が読んできた数十冊の本の中から特に料理のためになる5冊をピックアップしました。

インターネットで検索すれば断片的に情報が出てくるものもありますが、あくまでそれは二番煎じであったり、ライターによって曲解されていて本来書籍で伝えようとしていた内容から大幅な変更を受けていたりします。そういった情報の正しさを検証しながらネットサーフィンするのは大変な苦痛ですし、事実、それをさぼって「不確かな情報」を信じてしまっている人が、料理人に関わらず大勢います。

きちんとした料理の教養や知識を身につけるためには価値のある本を一冊通して読み切る事がとても重要になります。そこで、料理の勉強をしたい人のために「これを読めば間違いない」といいきれる5冊をピックアップしました。全て異なるジャンルから選出しているので、興味のある領域の勉強にお役立てください!

(画像クリックでAmazonの詳細画面に移行できます)

 

 

料理の科学:日常に潜む料理の迷信を科学で解き明かす

「パスタを茹でるときに塩を入れるのはなぜですか?」

パスタが柔らかくなるから?それとも固めてアルデンテにする効果があるから?ちょっと頭の回る人なら、お湯の沸点を上昇させるためなんて考える人もいるかもしれません(ちなみにどれも違います)。また、塩を入れるタイミングはいつがいいのでしょうか?水から?それとも沸騰してから…?普段気にも留めず行う調理工程1つとっても疑問は尽きませんね。

『料理の科学』はロバート・L・ウォルク著の一冊で、軽快なジョークも交えながらQ&A方式で料理科学の基本的なところなら応用的なところまでを解説しています。2巻立てになっていますが、特に1巻の調理基礎の部分が実践的で有用かなという印象を受けました。

料理の世界では「僕の師匠がこういうやり方でやってたからそうしているんです。意味は解らないんですけどね」なんていう口伝料理がかなり多く存在しています。意味が分かった上で料理をしない限りは効率化も新しい発見もできません。料理人としてワンランク上に行くための基礎知識が詰まった一冊です。

 

バルト、〈味覚の生理学〉を読む:ガストロノミー(美食術)の入門編

 皆さんはガストロノミーという言葉を聞いたことがあるでしょうか?ガストロノミーとは、食を美味しさだけでなく、見た目からもたらされる感動やその摂取によってもたらされる身体作用、また食卓を共にする人とのコミュニケーションなど、多角的な切り口によって解体し、その中でも最高の「美食」を求めようとする広い学問領域です。

料理を食べる時「舌の先→口の奥→飲み込んだ後」という経過ごとで味わい方の作法があるのですが、皆さんはどのように評価していますか?折角の高級料理でも漫然と飲み込んでしまってはいないでしょうか?

この本はガストロノミーの巨匠と呼ばれる大の食通ブリヤ=サヴァランという人が書いた美食の古典『味覚の生理学』を、言語学者のバルトが訳した上で、テキストとして読み解くという面白い構成の本です。ブリヤ=サヴァランの食の捉え方はもとより、それを言語化するにあたっての芸術性にも触れることができる一挙両得な内容になっています。

 

料理の四面体:世界に通じる料理のエッセンスを凝縮

「今でしょ」で一躍有名になった林修さんがテレビで紹介したのをきっかけに、この本のメルカリ在庫が無くなってしまいました(笑)

 通訳・観光・翻訳業をしながら世界を旅してまわった著者が、各国の料理技法の断片をまとめ、類似する料理間の共通点からその本質を導き出そうと試みる野心的な一冊です。

本編はアルジェリアの煮込み料理の作り方からフレンチまでの様々な料理の紹介と解釈が述べられており、流し読むだけでも面白いです。各章ごとに「では日本ではどうか」と、我々の食文化に落とし込んだ振り返りをしてくれるので、一般の解説書と比べて身につきやすい構成と感じました。

後半には、あらゆる料理(および調理過程)が内包されるという「料理の四面体」が紹介されています。これは、科学の世界で頻繁に用いられるモデル化という行為を料理でも行おうとした革新的な試みです。これを一冊読んでおくだけで、複雑多様な料理の世界をシンプルに見渡すことができるようになるでしょう。

 

「食」の課外授業:食べるってどういうことかを再考する

 ちょっと立ち止まって考えると「食べる」というのは非常に文化的な行為です。

5W1Hで考えてみましょう。食べるのが、ハレの日なのか葬儀後の会食なのか、仲のいい友達とか取引先の重役と名刺交換をしてからか、ファミレスでか寺でか、和食かエスニックか、火を通すのか生か、そしてそもそもなんで食べるのか…。

ちょっと条件を与えてやるだけで頭が痛くなりそうですが、私達は日々、これらすべての決定を一瞬で感覚的に行ってしまいます。この選択の判断基準になる食文化というものの解明を試みる過程で、私たちがいかにたくさんの偏見とわがままによって生きているのかがわかります。

さて、少し例を挙げましょう。

熱帯のとある国ではコウモリを食べます。「気持ち悪い」と思いますか?なんてことはない、そこではコウモリは鳥の仲間に分類されているのです。 また、別の国では日本人が大好きな卵を決して食べません。鳥の排泄物と考えられているからです…。

このように判断基準が少し異なるだけで食の認知の仕方はガラリと変わってしまうのです。

 

知っておきたい「食」の日本史:食の歴史は食の個性を物語る

 日本食知らずして料理語れず。いわんや世界の食をや。

ということでこの本もピックアップしました。

日本で肉食が禁止され他のちにまた流入して許容され始めるまでの経緯や、その過程でどんな食文化が発展してきたか、また、塩や砂糖、羊羹、スイカ、カルピスのような個々の食品がいかにして日本に伝来・定着したかを解説しています。

思わず「へぇ」と言ってしまうような気楽に読める歴史の本、そんなスタンスで書かれた文章は、まるで雑学の本でも読んでいるかのような気持ちにさせてくれます。

今ある日本食は古代からの「組み替え」の集大成。縄文時代から現代にかけてまでの日本食の成長を見れば、それがもはや日本だけの食でないことが身にしみてわかるでしょう。

 

さいごに

マニアックすぎることもあって今回は紹介しきれませんでしたが、料理や食材に関する網羅的な世界史の本や、名著『ジャガイモのきた道』のような一つの食材にフォーカスした本、あるいは、こういった下地を実践に落とし込んだレシピ本など、まだまだ面白い本はたくさんあります。

幕末の儒学者佐藤一斎の『言志晩録』には「少にして学べば即ち壮にして為すことあり…」に始まる一生勉強することの価値が述べられており、150年にも渡ってその言葉が語り継がれています。勉強できるのであれば、何冊も何冊も読むに越したことはありません。今回紹介した5冊のうちのどれか一つでも、読者の皆さんの興味をそそれたなら幸いです。

なお、先述のマニアック本たちは、自分の中で体系立ってきたら、記事にして紹介しようと思いますのでどうぞお楽しみに。

 

時短炊き込みご飯アロスコンチレ(arroz con chile)のレシピ

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アロス・コン〜シリーズ最終回は真っ赤な辛いペルー風ピラフ「アロスコンチレ」です!

チレ(Chile)は食材ではなく辛いという意味の形容(名)詞で、特に唐辛子による辛さに対して使われる言葉です。なのでアロスコンチレを直訳するなら「ご飯と辛味」といったところでしょうか。

 

ロスコンチレは、炒めた唐辛子ペーストを炊き込んだ辛〜いご飯と海老の旨味がベストマッチな料理。なんとなく四川風エビチリを彷彿とさせるような味わいです。

というのも、海老の旨味成分イノシン酸と唐辛子の旨味成分グルタミン酸が相乗効果を発揮して強い旨みを感じさせるからでしょう。

前回投稿した「アロスコンマリスコス(ターメリックで炊いたご飯と海鮮)」「アロスコンチャンチョ(コリアンダーで炊いたご飯と豚肉)」と合わせると炊き込みご飯シリーズ3品目になります。


つまりこの時点で、赤・緑・黄の三色のご飯と海鮮(貝、魚、イカ)・豚肉・海老の3種の組み合わせ(3×3=9種)ができるようになったわけです。

ロスコンポジョのような鶏肉を使った炊き込みご飯もありますが、アロスコンチャンチョと殆ど作り方が同じなので、実質3×4=12種のペルー料理が作れるようになったことになります。同様に、使える具材のレパートリーを増やしていけばいくらでも作れそうですね。

 

以前大阪のペルー料理店『ロスインカス』さんで食べた時はハバネロを使っていたのですが、今回はロコトペーストとアヒリモを使って辛味を弱めに作ってみました。

今回は冷やご飯を使って簡単に作れるようにアレンジしてあるので、思い立った時にパパッと作ることができます。

※ちょっと蛇足ですが、ペルー料理は家庭料理から派生しました。それ故に、出回っているレシピの至る所に時短技が散りばめられています。今回紹介する冷やご飯を使う炊き込みご飯の作り方は、回転率の高いレストランでもよく用いられる手法なので、胸を張って時短術を使っていきましょう!

 

ロスコンチレのレシピ

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材料3~4人分

冷やご飯:2合

鶏がらスープ:300mL

玉ねぎ:1/2個

ニンニク:1片

じゃがいも:2個

しめじ:1/3パック

ミックスベジタブル:50g

ロコトペースト:大さじ2

アヒパンカペースト:小さじ1

海老:16尾

アヒリモ:1個

 

レシピ

  1. フライパンに油を敷き、海老を入れて炒める。表面が焼き固まったら取り出す
  2. 同じフライパンでみじん切りにしたニンニクと玉ねぎ、ロコトペースト、アヒパンカペーストをよく炒める
  3. ※省略可:強火にしてピスコを加えてフランベする。
  4. 鶏がらスープを入れて鍋の旨味をこそげとり、さいの目切りにしたじゃがいもとしめじ、ミックスベジタブルを入れて煮込む
  5. 煮詰まって出汁が少なくなったらご飯を入れてよく混ぜて完成。お好みで横向きにスライスしたアヒリモを添えて完成

 

ペルーでは頻繁に辛い料理×じゃがいもの関係が見られます。じゃがいもの淡泊な味が唐辛子の辛さを緩和してくれる効果があるからです。今回もその作法に則ってレシピを考案しました。なお、遊び心でしめじも入れていますが、役割的にはじゃがいもと同じです。本場風にしたいならマッシュルームあたりが妥当でしょう。

また、フランベをすると炎の火力(1500℃前後)のおかげで素材の香りが引き立ちます。炎が上がるのが怖い、という人は生のロコトを直火で炙ってから使えばOK。その後に、工程2の段階で小さじ1のピスコ(なければ料理酒)と共に炒めればだいたい同じような風味になります。

 

ここまでで、生米から炊く・炊飯器で炊く・炊いたご飯を混ぜるという三通りの炊き込みご飯の作り方を紹介しました。それぞれでご飯の食感・味の染み込み具合が異なります。どれが正解などはないので、一番好きな方法をお試しください。

また、すべての記事に目を通してくださった方は、煮崩れを防ぐ(食材を途中で取り出す)・表面に焦げ目をつけてから煮る(リソレというフレンチの技法)・フランベをするなどといった工夫が散りばめられていることにも気づかれたことでしょう。

もちろん、めんどくさければどれもやらなくてOKです。なんなら今回の料理は

  1. 鍋にカット済みの全ての材料を入れてスープで煮る
  2. 煮詰まったところでご飯を入れて混ぜる

の2工程だけで完成します。

わざわざ炒めてみたり加熱時間を変えたりしているのはどれも「素材の個性」を生かすための工夫です。あまりに均一な料理は食べていて楽しくありません。例えば、焼き魚・きのこの炊き込みご飯・お味噌汁これらを全てミキサーで混ぜてしまえば、いとも簡単に「10秒メシ」ができてしまいます。こんなウィダみたいな料理よりは、食感が違うとか、味の濃さが違うとか、香りが違うとか…口に入れてみるワクワクが多いに越したことはありません。今回、アロスコンチレを作った方はきっと、海老をかじるときにワクワクしたはずです。そういう「料理の不均一性」が食を楽しませるための一番の工夫だったりします。

ちょっとお堅い話になってしまいました。まぁ、あんまりこじらせると「卵かけご飯をしっかり混ぜる派とざっくり混ぜる派でケンカが起こる」なんてことにもなりかねないので、好みやその日の気分に合わせてたのしくゆるりと料理を楽しんでください!笑

 

※ペルー料理に使う食材やその入手法はこちらから確認できます

morokitch.hatenablog.com